進撃の巨人 最終回その後 なぜリヴァイはパラディ島に戻らなかったのか三年間の謎・前編【小説】
今回は考察ではなく、最終回のその後(正確には地鳴らし停止→アルミン達がパラディ島に戻るまでの三年間)の小説書いてみた。
パラディ島に向かうメンバーになぜリヴァイがいなかったのか、そこに至るまでの三年間の謎をリヴァイ視点でお送りします。
長くなったんで二分割。今回は前編。
- 最終回のネタバレ含みます
- 過去の考察を元に好き放題に書いてます。いわゆる『二次創作』というやつになるので、興味ない人、苦手な人はお引取りください
- 必要なのは『こまけぇこたぁいいんだよ!』の精神
自由の翼
1.道化
「――リヴァイ、リヴァイ。おーい」
ばさばさと、何かが風にはためくような音が聞こえた。
風を感じ、うっすらと目を開けると、見知らぬ天井が視界に入る。
意識が朦朧とする中、風が吹いてくる方角に頭を傾けると、開いた窓から吹き込んでくる風で、カーテンがはためいているようだった。
珍しく夢でも見ていたのか、誰かに呼ばれたような気がした。ただ、誰なのか思い出せない。
よく晴れていた。
窓の向こうで、晴れ渡った青空の中を、薄い雲がゆったり漂っているのが見えた。
ぼんやりとしたまま、しばらく外の景色を眺めていると、遠くから、なにか機械音が聞こえてきた。
「まだ、飛ばせてくれるって」
まだ夢を見ているのだろうか。
カーテンがはためく音に混じって、どこからかささやき声が聞こえた――ような気がした。
それと同時に、窓の外を、一機の飛行艇が横切って行くのが見えた。
「つくづく、希望の船ですよ!」
医者が去った後、飛行艇の事を問うと、オニャンコポンはやや興奮気味に、
「ここは飛行船の研究所だけあって、技師もいるし人手もある。信じられますか? あの飛行艇を飛ばすために、エルディア人とマーレ人が協力して修理と改造をしたんですよ? ハンジさんは未来だけでなく、彼らの仲も繋げてくれたんです!」
熱弁を振るった後、慌てて、
「あ……すみません。なんか、無神経なこと……」
「いや……別にいい。お前も、飛行艇も無事でよかったよ」
それは本気で思う。飛行艇に燃料が残っていれば、あの猛攻の中、爆発していたかもしれない。そして要塞は今頃孤立無援だ。
しかし同時に『みんな』無事であって欲しかったというのも正直なところだった。
オニャンコポンは、吊った右腕をさすりながら、
「ホントは私が操縦したかったんですが、この腕なので。ここのパイロットも新人しか残ってなくて、そこがちょっと不安ですが……日没までには帰ってくる予定です」
横になったまま窓の外を見ると、さっきより風が穏やかになっていた。
自分がいるのはスラトア要塞の二階の一室だという。すぐ用意出来た個室がこの部屋だったそうだ。
「アルミンもさっきの飛行艇に?」
「はい。アズマビトの救助に。あれから三日も経っていますし、通りすがりの船に助けてもらっているといいんですが」
通りすがる船などあるのだろうか。それは言わないでおいた。
意識のない間に起こったことや現状を聞いていると、足音が聞こえてきた。
「――兵長!」
慌ただしく駆け込んできたのはコニーだった。意識が戻ったことを知らされ、慌てて駆けつけたようだ。
こちらの顔を見るなり、気が抜けたのかその場にへたり込むと、申し訳なさそうな顔で、
「その……すみませんでした。俺のせいで、足……」
「足? ああ……」
左足のことはすでに医者から聞いた。どうやら今後は、杖と車椅子の世話になるらしく、もう少し具合がよくなったら一階に個室を用意してくれるそうだ。
足のこと、不思議とショックはなかったのだが――どうやらコニーはショックだったらしい。自分の足でもないというのに。
「お前は大丈夫なのか?」
「え?」
「本当は、すぐにでもパラディ島に帰りたいんじゃないのか?」
飛行艇が直ったということは、その気になればパラディ島にも行けるということだ。コニーだって、考えなかったわけでもないだろう。
「そりゃあ……今すぐにでも母ちゃんに会いに行きたいですよ。母ちゃんだって、人間に戻ったら戻ったで、いきなり一人ぼっちだなんて……」
その辺は正直だった。しかし、顔を上げると、
「でも兵士になる時、母ちゃんに言われたんです。『みんなを守る立派な兵士になれ』って。……ここには困っている人がたくさんいる。今はここで、俺に出来ることをやって……それでいつか、堂々と胸張って母ちゃんに会いに行きます」
「そうか」
どうやら答えは出ているらしい。コニーは立ち上がると、さっきより明るい顔で、
「兵長、その時は一緒に帰りましょう。みんなに俺の母ちゃん紹介しますよ」
「――失礼するよ」
そこに、白髪の初老の男が入ってきたことで、話はそこまでとなった。
この要塞の代表と名乗る男の登場でうやむやになったが、
――一緒に帰りましょう――
コニーのその言葉に、すぐ返事が出来ない自分がいた。
「ホントよかったですね。キヨミさん達が無事で」
翌日。ガビとファルコが、して欲しいことはないかやたらと聞いてくるので、とりあえず部屋の掃除を頼むと、十分もせずに道具をそろえて再登場した。
黙ってやればいいのに、天気の話やら家族の話やら、当たり障りのないことをしゃべり続け、だんだんネタが切れてきたのか、前日のアズマビトの話になった。
その話はすでにアルミンから聞いていた。飛行艇が航海中の船を見つけ接近したところ、甲板でキヨミ達が手を振っていたという。
ファルコは床をモップで拭きながら、
「今も小舟で漂流してるんじゃあって思うと、おちおち寝てられなくて……オレのせいで、船沈めちゃったし」
「あれはファルコだけのせいじゃないでしょ」
ガビが窓を拭く手を止めてフォローするが、ファルコは暗い顔で、
「でも、運良く助けてくれる船がなきゃ、昨日まで救命ボートの上だったし……」
「……アズマビトも、それは覚悟の上だったんだろ。それに案外、救助の船のアテもあったから協力したんじゃないのか?」
ないだろうと思っていた通りすがりの船がいた――というわけではなく、地鳴らしが起こる直前、一足先にヒィズル本国に帰らせた別の船が、キヨミ達を案じて引き返してきたところを運良く発見してくれたらしい。もちろん、アテなどなくても協力したのかもしれないが。
彼女達はそのまま、ヒィズル本国に帰るとのことだった。『必ず、パラディ島との和平の道を開く』と約束を交わして。
「――あ、横になってたほうが!」
体を起こそうとすると、モップを壁に立てかけ、慌てて寄ってきた。
正直言うと、体のあちこちが痛い。さすがに無理をしすぎたようだ。
なんとか体を起こすと、
「あの時……お前らが来てくれなければ俺達は危なかった。そうなれば、地鳴らしは止まらなかったし、ここにいる連中も、アズマビトも終わっていた。感謝こそすれ、責めるヤツなんていねぇよ」
「…………」
「礼がまだだった。ありがとう」
ファルコは一瞬、驚いた顔をしたが、うつむくと、
「その……すみませんでした」
なぜか謝られた。昨日から、よく謝られる気がする。
しかし、この少年と自分との間に、謝ったり謝られたりするような問題が発生した覚えはない。それどころか、今日までまともに話す機会すらなかったはずだ。
困惑していると、ファルコは気まずそうな顔で、
「オレがもうちょっと早く飛べるとわかっていれば、ハンジさんを失わずに済んだんじゃないかって……」
ガビも、ファルコの隣に来ると、
「アルミン達から、ハンジさんとは一番付き合いが長かったって聞いたから……辛いはずだって……」
一体、何に気を使っているのかと思えば。
やたらこちらの世話を焼こうとしていたのも、誰かに頼まれたわけでも、ケガ人に同情したからでもなかったらしい。
ため息をつくと、
「お前の巨人が飛べるとわかっていようがいまいが、あいつは行っただろうし、お前らを戦わせようともしなかっただろう」
「でも……」
「でももクソもあるか。ガキが大人みたいな責任感じて、余計な気遣いするんじゃねぇ。わかったら二度とそのことで謝ったりするな」
「はぁ……すみません」
「ごめんなさい……」
わかったのかわかってないのか。この二人だって、家族や仲間を亡くしたばかりだというのに。
世の中には、とんでもなく悪いことをしておきながら、詫びひとつ入れないクソガキがいると思えば、自分がしたわけでもないことに罪悪感を覚える子供がいる。
そんな風に育ててしまった大人に、内心舌を打つと、
「……たしかに、防げた死だったかもな」
なんとなく天井の隅に目をやると、小さな蜘蛛の巣があった。まだまだ掃除が甘い。
「だがそれを言うなら、あの場にいた全員に責任はある。そもそも飛行艇が撃たれるなんてことがなけりゃあ、あんなことにはならなかったんだ」
あの時――フロックの存在にもっと早く気づいていれば、阻止出来たかもしれない。自分の体が万全なら、代わりに行くことだって出来たかもしれない。
いや、もっと過去にさかのぼるなら、『エレンを食わせる』という兵団の決断に従っていれば――なんなら、マーレでエレンを見失うなんて不手際さえなければ――そもそも、エレンを調査兵団に入れることを許したりなどしなければ――
だが、どんなに悔やんでも時間は戻らない。未来なんて知りようがない。
その時その時で『最善』と思える選択をし続けた結果、得られた『今』という現実を生きるしかないのだ。
たとえそれが、『仲間を失う』という現実だったとしても。
「……あの、リヴァイさん?」
「あ?」
目を向けると、なぜか一瞬、ファルコがすくみあがったが、
「その、具合がよくなってからでいいんですけど……よければ、調査兵団のこと教えてくれませんか?」
「あ、私も聞きたい。ここにいるみんな、知りたがってるんです」
改めて『教えろ』と言われても、何から話せばいいのやら。
「調査兵団で一番強かったんですよね? 『人類最強の兵士』って呼ばれてたって」
「……とんだピエロだったよ」
意味がよくわからなかったのか、二人はきょとんとした顔で、
「ピエロ?」
「本当に強ければ、ここにはいない」
そう。ここにはいない。
弱いヤツは嫌いだった。ずっと、弱いヤツから死んでいくのだと思っていたからだ。
自分が生き残るのは、強いからだと思っていた。
「強いヤツは、みんな死んでいった。弱いヤツを守って。……俺は、誰も守れなかった」
てっきり、あの戦いで自分も死ぬのだと思っていた。『人類』とかいう、どこの誰とも知らぬものを守って。
すぐ同じところへ逝けると思っていたのに。
ところが、一体何がどうしてこうなったのか。あのヒゲ野郎が突然、自らの心臓を捧げるなんてことさえしなければ。自分は、先に逝った仲間達と同じところへ逝けたかもしれないのに。
人類を守って死ぬ。そんなカッコいい死に方をするのは自分だと思っていたのに、とんだ道化だ。
あの男は、最後の最後まで、こちらへの嫌がらせに余念がなかった。
ファルコとガビは一瞬顔を見合わせ、困惑した様子で、
「そんなこと……ないと思いますけど」
「地鳴らしを止めたのはリヴァイさんじゃないですか」
「……俺じゃねぇよ」
さすがに少ししゃべりすぎた。
横になると、どっと疲れが出てきた。二人も察したのか、余計なおしゃべりはやめて、掃除を再開する。
掃除する音を聞きながら、ぼんやりと外を眺める。数日前は、ここから巨人の群れが迫ってくるのが見えたのだろう。
しかし、それを止めたのは自分ではない。
そもそもこの地にたどりつけなければ――仲間達を集め、共に島を飛び出さなければ、地鳴らしは止まらなかった。
ジークが自らの意思で出てこなければ、地鳴らしは止まらなかった。
地鳴らしを止めたのは、ハンジであり、ジークだ。
弱かった自分は、守られてしまった。
それだけのことだった。
2.親心
十日も過ぎると体を起こせるようになり、顔の包帯もはずれた。
右目はすでに摘出手術をしてくれたらしく、触れるとくぼんでいた。義眼を用意してくれるらしいので、それまでは眼帯をしててくれと医者は言ったが――その眼帯を忘れてきたので、後で届けると言って部屋を去った。
医者が去り、しばらく開けた窓からぼんやり外を眺めていると、子供の声が聞こえた。
声のほうへ目を向けると、数人の子供が、かけっこでもしているのか近くの木の前に集合しているのが見えた。
ほんの数日前までは、世界中は阿鼻叫喚の地獄絵図で、今だって大人達はこれからのことに頭を抱えているだろうに、まるでそんなことはなかったかのようだ。
なんとなく見ていると、子供の一人がこちらに気づき、手を振ってきたので、手くらい振ってやればいいだろうかと思ったが――やめた。
走り去って行く子供達を見送っていると、
「手くらい、振ってあげればいいのに」
見ていたのか、勝手に入ってきたピークが不思議そうな顔をする。
指の足りない手に視線を落とし、
「こんな手見たら怖がるだろ」
「たいして珍しくないですよ。戦場帰りのエルディア人は、手足の一本なくなってることも多いし」
「そんなのに慣れるなんてロクなもんじゃねぇな」
言ってから――ふと、
「……いや、調査兵団もロクなもんじゃねぇか……」
「『手足の一本』になって帰ってくる人も多いんでしたっけ? あ、これ、お医者さんからです」
預かってきたのか、黒い布製の眼帯を差しだす。
「あなたはこれからどうするんです?」
ピークは抱えていたコートを机に起き、イスに腰を下ろすと、
「まずはケガを治すのが最優先でしょうけど……いずれは、パラディ島に帰るおつもりで?」
「わからん」
――一緒に帰りましょう――
コニーにそう言われてからだった。さほどあの島に、未練も思い入れもないことに気づいたのは。
こちらの反応の薄さに、ピークは驚きもせず、
「ま、あなたにしてみれば、あの島は自分や仲間達を裏切った『悪魔の島』ですしね」
イェーガー派のことを言っているらしい。たしかに、脊髄液入りワインをばらまかれ、その後も命を狙われた。自分の立場から見れば、ピークの言う通りなのかもしれない。
かもしれないが、
「……どうだろうな。悪魔は俺のほうかもしれない」
港での戦闘、自分は見ていることしか出来なかった。ハンジやアルミン達には、嫌なことをさせてしまったと思う。
「あいつらは、自分達が一番正しいと信じた道を選択しただけだ。俺達は、俺達が一番後悔しない道を選択して、そのために仲間を斬った。それは事実だ」
「……あなた達は、自分に刃を向けて来た者を『仲間』と呼ぶんですね?」
「選んだ道が違っただけだ。どこかでまた合流するかもしれん」
ピークは呆れともなんとも言えない顔でため息をつくと、
「ま、あなたがそれでいいのなら、私がどうこう言う筋合いはありませんね。……あと、ついでにこれもお返ししておきます」
立ち上がると、机に置いたコートを差しだす。彼女が潜入のために着ていた、調査兵団のコートだった。
「調査兵でもない私が、いつまでもこれを着ているわけにはいきませんから」
「こんなの返されても困る。だいだい、なんで俺に?」
「サイズ合うかと思って」
一瞬、ここ数年ですっかりごつくなった部下達が脳裏をよぎる。もっとも当のピークは、消去法で着れそうな者を選んで持ってきただけなのだろうが……
「みんな着るものにも困ってんだろ。他のヤツに回してやれ」
「それはあなたも同じでしょう?」
「そうかもしれんが、それはもう着ない。……もう、うんざりだ」
「…………」
ピークは少し考え――コートをこちらの膝の上に置くと、
「では、他のふさわしい方に差し上げてください。あなたの仕事です」
「は?」
「私ではどんな人に託せばいいのか、わからないので」
「……なんでお前に仕事を命じられなきゃいけないんだ?」
「まあ、いいじゃないですか」
用事が済んだのか、イスを元の位置に戻す。
「ところで、始祖ユミルって、結局何がしたかったんでしょう?」
部屋を出て行こうとして、思い出したらしい。足を止めて振り返ると、
「アルミンが『道』で聞いたという話では、初代エルディア王の奴隷だったこと、三人の娘の母親であったこと、求められるままひたすら巨人を作り続けたこと、エルディア王を愛していたこと……どう思います?」
始祖ユミルの名に、『道』で会った少女を思い出す。なぜかはわからないが、見た瞬間、始祖ユミルだと理解した。恐らく他の者もそうだったのだろう。
しかしその目的は、本人から聞かない限り誰にもわかるわけがなく、想像で補うしかない。
少し考えると、
「……案外、ガキの要求に応えてただけで、本人には何かしら目的があったわけじゃないのかもな」
ピークはきょとんとした顔で、
「つまり、彼女にとって巨人作りとは……子供が欲しがったから与えてただけで……与えたおもちゃがどう使われるかは重要ではなかったと?」
「子離れ出来ない、ダメな母親だったんだろ」
「だったら私達は、親離れ出来ない甘ったれのお子さまだったんですね」
聞いて損したと言わんばかりに肩をすくめると、一礼して部屋を出て行く。
去り際の呆れた顔が――まるで、自分のことを呆れられたような錯覚に陥る。
視線を落とすと、コートの背中の自由の翼が視界に入った。
「……自分には何もないもんだから、ガキに自分の存在意義を求めちまったのかもな」
それは、必要とされる『喜び』だったのか、不要と捨てられる『恐怖』だったのか。
自分と同じだ。
ここ数日で、気づいたことがある。自分には何もないのだと。
何もないから、自分の力の意味を、存在意義を仲間達に求め、仲間達の『願い』を叶え続けて来たのだと。
その結果、残ったのは、何もかも失った空っぽの自分だけだった。
きっと自分には、最初から『自由の翼』はなかったのだろう。今も昔も、自由に飛び回る鳥を、暗い地下から見上げてうらやむことしか出来ない。
見送ることは出来ても、同じところへは行けない。
一ヶ月も過ぎると体の痛みもよくなり、部屋を一階に移した。
リハビリも兼ねて杖を使っての歩行訓練を行うようになると、アニの父親がずいぶん熱心に歩くコツを教えてくれた。彼自身も足が悪かったらしく、巨人にされてしまう以前は杖を手放せなかったという。
そうだとしても、なんだってそんなに親身なのか聞いてみると、一緒に来ていたライナーの母親と共に謝罪された。
「あの子を戦士にしたのは俺だ。ライナーやベルトルトも似たようなもんだ。……だからあんたの仲間を殺したのは、俺達なんだ」
「許してくれ、なんて厚かましいことは言えませんが……せめてこれからは、協力出来ることはなんでもしたいんです」
来る者、来る者に謝罪される。自分の中では、アニやライナー達とのことはすでに終わったことだと思っていること、殺そうとしたのはこちらも同じであり、何より彼らのことはもう仲間だと思っていることを伝えると、彼らは少し安堵の表情をした。
リハビリの甲斐もあって部屋の外を歩き回れるようになると、見えたのは人間のたくましさだった。
食料確保のため、野菜や果物から種を採取し、育てていると聞いてはいたが、こんな荒野のど真ん中に、小さいながらもわりと本格的な畑が出来ていたのには驚いた。ただ、土壌の問題もそうだが、それ以上に水の確保が困難なので、あまり期待は出来ないそうだ。
正直なところ、食料も水も足りない生活が続き、もっと悲愴感や混乱があるかと思っていたが、意外とみんな穏やかで、そこには確かな秩序が存在した。
その秩序を守る一助になっていたのは、たった一機の飛行艇だった。外部との情報の共有、救援物資の輸送――すべての飛行船を失い、線路も壊され、孤立無援となった要塞を、確実に外部に繋げてくれる安心感を人々に与えていた。
誰が最初に言い出したのか、そのつぎはぎだらけの飛行艇を『自由の翼』と呼ぶ者もいた。
〈後編に続く〉
後編はコチラ