同志少女よ、敵を撃て 感想と考察3 他人を悪魔にしたミハイルと自分が悪魔になったセラフィマ
逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』の感想と考察その3。
今回は『普通の人』だったミハイルやその部下達がメイン。セラフィマとミハイルの違い、ハンスとミハイルの共通点などを考察。
ついでに進撃のマルロの考察も少々。
前回の考察はコチラ
- 個人の感想と考察です
- 思いっきりネタバレしてますんで『ネタバレバッチコーイ!』な方のみどうぞ
- 軽く進撃の巨人が混じっちゃうのは勘弁してやってください
最適化されたミハイル
当初、進撃で言うところのファルコポジション……のように見せかけて、ダズやサムエルのような周囲に流される小者ポジションだったガッカリ男。それがミハイル。
『自分が超いい人になるため他人に悪魔になってもらう』ってところはフロックやエレン・ヒモーガーさんでした。またお前か。
エレン「知らんがな」
↑こいつ、一見『カッコいいこと』言ってんだよ……一見。
さて、『あのラスト』のために、超・好青年に書かれてた感さえするミハイルですが。
なんかミハイルのせいで『彼の妹が男達にされたこと』が、まるで『ミハイルがしたこと』に対して『やり返されただけ』に見えてきちゃうわ。『どっちが先とか知らねぇよ』ってなだけで。
ミハイルが女性を暴行した数だけ、妹は●されたようなもん。
なのにミハイル自身は『幸せな死に方』してんですよね。
妹やご近所の奥さんは、散々屈辱と苦痛を与えられた末に●され、セラフィマもヤバかったというのに、散々女性に屈辱と苦痛を与えてきたはずのミハイル自身は、恐怖も痛みも感じる暇がないまま、セラフィマが放った銃弾一発できれいに逝った。
セラフィマの一撃は『慈悲の一撃』だったんだろうね。
だってミハイルは『そんなことをするくらいなら死んだほうがマシ』と言ってたもんね?
ミハイルは『過去の自分の発言』に『責任』をとっただけ。
そしてセラフィマは『心優しい幼なじみ』の願いを叶えてあげただけ。
セラフィマが放った一撃のおかげで、ミハイルはもう誰も傷つける必要がなくなった。まさに彼が望んだ『心優しい幼なじみ』に戻った瞬間。
彼らは『異常者』だったのか?
セラフィマには『僕はそんなことしないよ』と言っといて、後に彼の部下共々、婦女暴行してたことが判明したミハイルだけど。
ではミハイルを初め、女性を暴行してた男達は『とんでもない異常者』だったのか? というと、そうじゃないと思う。
別に擁護するわけじゃあないけど、彼らは『特別な人』でもなければ『異常者』でもなく、むしろ『超・普通の人』だったからこそ、『そうなった』のだろうと思う。
戦争に行く前のミハイルは『心優しい若者』だった。
『戦争』なんてものがなければ、彼はふつーに良き恋人、良き夫、良き父親になっていたのだろうと思う。
むしろ、作中に登場する男性はみんなそうだったのかもしれない。
『異常』なのは『状況』だった。
『戦争』って異常事態だよね。だって平常時は『人を●すこと』は『やっちゃいけないこと』の代表格のはずなのに、『戦争』になったとたん『やっていいこと』になっちゃう。
おまけに、●した数が増えれば増えるほど褒められ、英雄になる。
彼らは『普通の人』だったからこそ『戦争』という『状況の異常さ』に、これまでの『優しい自分』を奪われてしまったのだろうと思う。
『心優しい自分』のままだったら、『人を●す』なんてとても出来なかったから。
つまり『なにかに酔っぱらってねぇとやってらんなかった』んじゃないの?
エピローグにあった『自らの精神が強靱になったのではなく、戦場という歪んだ空間に最適化されたのだ』ってのはこういうことなんだろうな……
結局、ミハイルを初めとする女性を暴行していた男達は『強靱な精神』を持たぬ『普通』の人だった。
だから『戦場という歪んだ空間』において『これまでの自分』を維持することが出来ず、『最適化』されてしまった。
進撃ではライナーがそうだったように、ミハイルもセラフィマと会った時は『優しい幼なじみ』のミハイルで、女性を暴行しようとしていた時は『最適化』された人格に切り替わってたのかもね……
ミハイル達が求めたもの
プロローグでセラフィマが鹿を撃とうとした時、子鹿の存在に気づいて一瞬ためらうシーンがあった。
セラフィマがためらったのは『普通の心優しい子』だったから。
親を失った小鹿の気持ち、子を残して逝く親鹿の気持ち、親を亡くした後、あの小鹿はどうやって生きていくのだろう……といったことを色々『想像』してしまったからためらった。
でも撃たなきゃいけなかった。その際、彼女は歌ったけど、本人はそれに気づいていなかった。
その間の彼女は、鹿を撃つため完全に『思考停止』していたから。
しかしセラフィマは『戦場という歪んだ空間』に『最適化』されなかったから、最後はちゃんと『起点』に戻ってきた。
『最適化』されてしまったミハイル達は、『思考停止』したまま戻ってこれなかった。
さてここで、ミハイルが撃たれた後の部下・ドミートリーくんの様子を一部抜粋。
『命を賭して戦い、だからといって得られるものもない戦い。その最後に、せめて思い出をさずけようと美しいドイツ人女を献上しようと思ったのに、そこで隊長は頭を打たれた。勝利と女を目の前にして、すべてを犠牲にして戦った彼は死んだ』
『こんな理不尽があっていいものか。故郷を失い、家族を失い、戦友と共に命を賭けて戦い抜いてきたミハイル隊長が、最後にちょっとした恩恵も受けずに死ぬなど』
女性らからすりゃあ『一番理不尽なんはお前らじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!』と大ブーイングの嵐が吹き荒れること思ってんなー……
さて、ドミートリーくんの脳内からわかるのは、少なくともミハイルと彼の部下達は『命を賭して戦ったところで得られるものはなにもない』と思って戦っていたということ。
イリーナが「常に自分は何のために敵を撃つのかを見失うな。それは根本の目標を見失うことだ」と言っていたように、彼らはとっくに『根本の目標』を見失っていたということになる。
つまり彼らには『起点』がなかった。
たとえばヤーナは『子供を守るため』に戦ってた。
だから自分が大怪我をしようと、助けた子供が無事ならそれで満足した。それが彼女の『起点』だったから。
しかし、ミハイル達はそうじゃなかった。
もちろん最初は『祖国を守るため』とかご立派な『動機』があったのかもしれないけど、本音は『ヒーローになりたい!』なんて『欲望』があったんじゃないの? もしくは、新聞とかの『誰か』の言葉に、『その気』になってしまったか。
しかし現実は、どんなに戦っても『何も得られない』と悟り、『根本の目的』を失った。
進撃だとフロックだな……
逆を言えば『何も得られないのに命を賭けなきゃいけない』ことに『不条理』を感じるようになったんじゃない?
だから『ご褒美が欲しい』と思うようになった。
せめて『ご褒美』があれば、そのために頑張れるから。
『すべてを犠牲にして戦った』って割に『ご褒美』を求めてる時点で、『自分は犠牲になりたくない』って本音が漏れてますよ……
ミハイル達にとっての『女性』とは
結論から言わせてもらうと、彼らにとって女性とは『ちょっとした恩恵』でしかなく、『鹿』のようなポジションだった。
もちろん女性からすりゃあ『ンなわきゃあるかボケェ!』なんだけど……
どっちにせよ、女性を人間扱いしてないよね。彼らにとって女性とは『自分達が気持ちよくなるためのアイテム』でしかなかった。
むしろ『生きるために命をいただく』わけじゃないぶん、その扱いは鹿以下ですらある。
結局ミハイルは『優しい人』だったのではなく『弱い人』だったのだろうと思う。
なぜなら『強き者』は『弱い者いじめ』なんてしない。『弱い者いじめ』は『弱い者』がやる。
彼が部下に優しかったのは『弱い者いじめしない強き者』だったのではなく、単に『自分が弱い』もんだから『嫌われないようにしよう』としただけじゃない?
嫌われたら、自分がいじめられるから。
部下達がミハイルを慕ったのは、『殴らないから』じゃなく『自分達を甘やかしてくれるから』じゃない?
ガミガミ叱るかあちゃんより、甘やかしまくるばあちゃんになつく子供のように。
彼らは『自分』に甘かったから、『どっかで報われてもいいよね!』と『ご褒美』を求めた。それが『女性』。
作中、敵前逃亡してしまった部隊の隊長が処刑されるシーンがあったけど『弱いこと』が許されないのが戦争。
しかしその『戦争』は、大多数の『弱き者』によって行われているというのは、なんとも皮肉な話。
逆に『敵前逃亡』を許したのが進撃のピクシス司令。
ピクシス司令は文字通り『弱き者』を許さなかった。彼が求めていたのは本物の『強き者』だったから。
だから彼の言葉に踏みとどまった『強き者』は、見返りを求めることなく命を賭けて戦い、初めての『人類の勝利』を手に入れた。
『仲間』を作ったセラフィマ、『共犯者』を作ったミハイル
『戦場という歪んだ空間』に『最適化』されたのがミハイル達だったけど、セラフィマも一時、戦争というものに『最適化』されそうになった。たとえば、スターリングラードでベルクマンを撃った時がそう。
敵を撃ち、喜ぶセラフィマに、怒り、ドン引きするのがセラフィマの仲間達。
セラフィマとミハイルの『違い』ってここだろうね。
『友達が悪魔になりそうになっていたら止めてやるのが友達』と思っていたのがセラフィマの仲間達だった。
おかげでセラフィマは過ちに気づき、最後まで自分を見失うことなく信念と仲間達のために戦うことが出来た。
一方『トモダチになるには一緒に悪魔にならなければいけない』と思っていたのがミハイルとその仲間達だった。
彼らは自分達の仲を深めるのに『暴力』を使った。無関係な弱い人相手に、みんなで一緒に『犯行』を行い『秘密』を共有することで『仲間意識』を強めていった。
それは『友達』じゃねぇ。『共犯者』や……!
ミハイルとその部下達って、まさにエレンとイェーガー派のような関係。
エレンはヒストリアやフロックを『悪魔』にし、世界と兵団を『悪者』にし、パラディ島を本物の『悪魔の島』にし、島民を本物の『島の悪魔』にし、仲間達を『裏切者』にし、誰も救わず、ミカサを泣かせただけのクソ野郎。(ボロクソ)
なのにイェーガー派はエレンを『超いい人』と勘違いしてちやほやした。
ミハイルも『僕はそんなことしないよ☆』と言って他の人を『悪魔』にし、仲良く婦女暴行を行って部下達を『悪魔』にし、何も得られず、『いつかプロポーズを』と思ってた女性に『幼なじみ』を撃たせたクソ野郎。
なのにミハイルの部下達はミハイルを『超いい人』と信じ込んでちやほやした。
『共犯者』の選択肢
戦争体験者の話で『戦争とは人が人でなくなること』ってよく聞くけど、『想像力を奪われるから』じゃないかと思う。
人が人でいられるのは『他人の気持ち』を思いやることが出来るから。それが出来なくなったら、それはもう獣と同じだよね……
むしろ『ただただ己の快楽のため』に、意味なく女性を傷つけ●すなんて獣にも劣る。なんなら子孫のために我が身を捧げる虫さんとかお魚さんのほうがよっぽど崇高。(辛辣)
逆に『そんな状況下でも自分を維持出来る人』こそが『異常者』であり『特別な人』。進撃で言うところの調査兵団がそれ。
そういう意味ではセラフィマは『異常者』だったけど、それはセラフィマが『勝手にそうなった』んじゃない。
彼女もまた『普通の人』だったけど、『導く者』や『特別な仲間達』が彼女を『特別な人』にした。
セラフィマとその仲間達は『仲間のためなら自分の命を賭ける』覚悟のある本物の『仲間』だったけど、ミハイルとその周囲の仲間達は単なる『共犯者』でしかなかった。
だからミハイルが撃たれた後、ミハイルの部下達はハンスの『俺がやったんやでー』というセラフィマの通訳を疑わず処理した。『自己保身』のために。
そしてミハイルを『かわいそうな被害者』にするために。
なかなか出来た部下だよね。ミハイルが死んだのは『ハンスを撃ち損じたセラフィマのせい』なのに、一切責めず、それどころか『英雄』にまでしてくれたんだから。(嫌味)
ハンスと一緒。『それまでの生き方』が、その選択を取らざるを得なくした。
ミハイルの部下、ドミートリーくんは最後に『俺が、ミハイル隊長が戦った戦争は、一体なんだったのだろうか』なんて思ってたけど、『彼らの戦争』を『そういうもん』にしたのは自分達。
『一緒に悪魔になるのが仲間』と思ってた彼らは、セラフィマ達の『共犯者』となり『真実』を闇に葬った。
『正義の味方』になりたかった男たち
女性を暴行したミハイル達はたしかにクズだった。
では、ハンス・イェーガーはどうだったか?
たしかにハンスは、婦女暴行には加わらなかった。その点に関してはミハイル達より『マトモ』と言える。
でも『止めること』もしなかった。
むしろ『あいつらとは違う特別な俺』の演出のために『仲間を使ってた』とも言える。だから嫌われた。
さて、そんなハンスですが。前回は彼の身勝手さ、情けなさがジークとエレンみたいと考察したけど、もう一人、似てるなぁと思う進撃キャラがいる。それがマルロ。
なんかハンスって、マルロがそのまんま憲兵団に居続けた場合の未来の姿に見えるんだわ。(ハンジさんの呼びかけを無視した場合のジャンの未来の姿にも見える)
進撃のマルロは『正義感』の強い人だった。もし婦女暴行なんて目撃しようもんなら止めに行ったと思う。
そして返り討ちにあって婦女暴行は阻止出来ず、自分が痛い目に遭うだけで終了する姿も予想される……アニメ一期で、まさにそんなシーンあったわ。
ハンスって、元々はマルロみたいな『正義感の強いヤツ』だったんじゃないかって気がすんですよ。少なくとも『女性』に関しては彼なりの『正義』があったように見える。
もしかするとハンスも、最初の頃は止めようとしたのかもしれないけど、結局上手くいかず、それどころか自分が損ばかりすることになって、ぐれちゃったの?
かといって『自分のせい』と認めるほどの強さもなく、責任転嫁ばかりするようになっちゃったんだろうか……
で、『俺の辛さをわかってくれ』と、女(サンドラ)に逃げた。うーん、これはロッド・レイス。
そんな彼に出来たのは、せめて『参加しない』ことだった、ということ?
そういう意味では『悪に抗っていた』と言えんこともない。
『悪いコウモリ』になったハンス
とはいえ。婦女暴行に参加しなくても『俺もあいつらと同罪だ』と『共に罪を背負う』くらいの心意気を持つことは出来るんですよ。『本当の仲間』であるならば。
進撃では、ハンジ団長率いる調査兵団ガチ勢がそうだった。
『本当に仲間だと思っていた』からこそ、命を賭して同胞の蛮行を阻止しなくてはならなかった。『彼らの罪』を背負っていたから。
しかしハンスは『俺はあいつらと違う』と思うことで『彼らの罪は彼らだけのものであって俺は無関係』と思っていた。
なぜなら自分は『正義の味方』だから。
『悪党』と『仲間』なわけがない。
でも被害者からすると、ハンスが『悪党』と思ってる人達とハンスは『同じ』なんだわ。
いじめを見て見ぬ振りしてるヤツと一緒。『知ってて何もしないヤツ』も同罪。
ハンスには罪を受け入れる勇気がなかった。それを理解しちゃうと、自分の心が壊れちゃうから。だから『仕方なかった』ことにした。
彼は彼自身の『正義』のために、『罪を犯す仲間達』からも『被害に遭う女性達』からも、そして『罪』からも逃げただけ。
彼には『本当の仲間』が存在しなかったから。
『本当の仲間』を手に入れるには、『他者を理解しよう』とする心意気が必要。
しかしハンスは、他人を見る時フィルターをかけて見ていた。フィルターごしだったから、サンドラをとても自分に都合よく見ていた。
果たしてそれは『理解する気がなかった』のか『理解しないようにしてた』だけなのか。
どっちにせよ、ハンスは『自己保身』を優先し『他人を理解』することはなかった。
その結果、ハンスはどっちつかずでふらふらしてばっかの『悪いコウモリ』になった。
鈍感か自己中か。最期に理解したマルロ
※ちょっとここから進撃の巨人の話に。
『ハンスはマルロの未来の姿』とさっき書いたけど、マルロも他者を理解する気がなかったよね。
マルロは気に入らない人を『クズめ!』で片付けて、それを『やっつける』ことが正義だと思っていた。
それって『豚を逃がした犯人』を集落から追い出して『これにて一件落着!』するのと同じで、結果として豚と労働者を失っただけで何も得られてないんだわ。得られるのは王様の『仕事やった感』だけ。(まさかの巨人化能力得てしまった人いるけど……)
問題なのはそんなことをする人を生み出した『仕組み』なのに、そっちは変えず、罪人を罰することで解決した気になる。『理解すること』を放棄しているから。
悪いヤツを見て『俺はあいつらとは違う!』って態度してたマルロだけど『相手を理解する気がない』という点では『まったく同じ』。
なのにマルロはそのことに気づかない。なぜなら『正しい自分を理解しない相手側が悪い』から。
だから『自分の正しさ』を疑わず『自分の都合に合わせたとおり』にしか人を見なかった。調査兵団をやたら良く見たり、ヒッチをやたら悪く見たり。
そういう人達は問題が発生しても『向こうが俺の正しさを理解すれば解決!(俺は向こうを理解しないけど)』と考える。これは実にエレン・ヒモーガー。(またお前か)
おまえ、そんなだから『ただのオカッパ野郎』にしかなれないんだよ……!
『相手の好意に気づかない鈍感キャラ』っているけど、単に『他人を理解する気がない自己チュー野郎』なだけだわ……エレンといい『他の者はすべてオレを主人公にするための脇役』と思ってんじゃねーの?(辛辣)
『自己チュー野郎』と『自己チュー野郎』がぶつかって●し合いが起こる。
『事件』を起こすのが『悪党』なら、『戦争』を起こすのは『正義の味方(自称)』なんだと思うよ……(『戦争』には『大義』が必須)
さて、そんな『自分の正義』を疑わないマルロを笑ったのがヒッチであり、諭したのがアニだった。
彼女は、そうなってしまう人の『弱さ』を知っていた。彼女には他者を理解しようとする『やさしさ』があったから。
そして『自分のことを理解してくれ』なんて甘ったれたことを他人に求めなかった。それは『押しつけ』であり『言い訳』にしかならないから。
マルロが死の寸前に思った『あぁ…いいな』は、彼がこれまで理解しようとしなかった人達のことを初めて『理解』した瞬間だったよね。
ハンスとミハイル達の共通点
ハンスやミハイル達に共通しているのは、『自分が超いい人』になるために『女性』を利用したということ。
ハンスは婦女暴行に加わらないことで『女性を傷つけない超いい人』になった。
ミハイルは80人撃った女性(セラフィマ)を責め、女性に男への理解を求めることで『超いい人』になり、その一方、部下達を甘やかし、一緒に女性を暴行することで『超いい上司』になった。
ミハイルの部下達は上司に美女を献上することで『超いい部下』になった。
なんというか、情けなさ、カッコ悪さ詰め合わせセットがハンスなら、ゲスさ、クズさを詰め合わせたのがミハイル。そしてそれらすべてを併せ持ったクズのフルコンプセットがエレン・ヒモーガーさん。
『弱いヤツ』は『背負ってるものがない』から弱いんだわ。もしくは放り出したか。
『背負うもの』がないから無責任なことが出来る。『自分』しか守るものがないから、すべて人のせいに出来るし、楽なほうにすぐ逃げちゃう。
『背負うもの』がある人は、そう簡単に逃げるわけにはいかない。しかし、それを『重し』にして、ここ一番の時に踏ん張る『強さ』を発揮する。
ミハイルは放り出した。家族は死に、故郷も滅び、戦う理由を失ったから。だから『欲望』に逃げた。
セラフィマは背負っていた。死んでいった故郷のみんなや仲間達は、彼女の中で生きていたから。だから『敵』を撃った。
ミハイルのこともそう。
セラフィマは、嘘をついてたミハイルにブチギレて撃ったわけじゃない。なぜならミハイルを撃つ時、彼女は歌ったから。
鹿を撃った時と同じ。
『自分の内面は限りなく無に近づき、果てしない真空の中に自分だけがいるような気持ち』になった瞬間、彼女は歌う。
実際、撃つのは他の男でもよかったはず……でもミハイルを狙った。
「そんなことするくらいなら死んだほうがマシ」と言った彼を、『嘘つき』にしてはいけなかったから。
そして彼の妹がどう●されたのかを知っていたから、なおさら彼の蛮行を阻止しなくてはならなかった。
それが出来なければ、これまで戦ってきたことすべてを根本から『否定する』ことになるから。
皮肉なことに、ミハイルが『超いい人』と思われるためにした発言が、彼を『本当の超いい人』にした。
罪から逃がしてもらったミハイル
結果としてセラフィマはミハイルを●したわけだけど、一周回ってむしろミハイルを愛していたから撃ったと思えてくるな……『異性として』だろうが『友として』だろうが、どっちであったとしても。
戦いが終わった後も、故郷の村を再建して『ミハイルとの約束』を果たしたのはホントすごいよ……まあ、再建の言い出しっぺセラフィマだけど。
これ『ミハイルを撃った犯人』として捕まって処刑されたら出来なかったんだよね。
もちろん処刑前には動機言うことになるから、ミハイル達も『暴行魔』として汚名がつくね。
一見、罪から逃げたようで、セラフィマはミハイルを罪から逃がし、彼の分も償うために生きた。
セラフィマの『償い』って『ハンスに罪をかぶってもらった罪』も含まれていたのかも。彼への『償い』として、彼が滅ぼした村を再建させた。
ハンス、いまわの際で『撃ったん俺やでー』とセラフィマの身代わりになる発言したことになってたけど、セラフィマの通訳に嘘はなかったんじゃないかって気がすんだわ……
他人を悪魔にしたミハイル、自分が悪魔になったセラフィマ
これから死ぬハンスにとって、自分を撃ったセラフィマの身代わりになるなんて、なんの『得』もない。
しかしセラフィマは『なんの得もない』のに、女性を救うために同胞を撃った。
それって『ハンスがやりたかったこと』だったんじゃないの?
そしてミハイルへの狙撃が『ハンスがやったこと』になった瞬間、ミハイルは『暴行魔』から『かわいそうな被害者』になり、ハンスは『女性を救ったヒーロー』になった。
これまで、撃ちたくても撃てなかった悪者をやっつけ、救いたくても救えなかった女性達、セラフィマとイリーナも含めて救ったヒーロー。
ミハイルの部下達は、自分達の保身のためにセラフィマを『英雄』にしたけど、あの場で『真のヒーロー』になったのはハンスだった。
一方セラフィマは、幼なじみを狙撃し、他人に罪をかぶせた『悪魔』になったけど、結果としてこれ、誰も不幸になってないよね?
『自分が超いい人になるため他人を悪魔にした』のがミハイルやハンスだったけど、『他人を超いい人にするため自分が悪魔になった』のがセラフィマやイリーナだった。
そのおかげで、セラフィマはイリーナと共に生き延びて故郷を再建し、ハンスは女性を救ったヒーローになり、ドミートリーくん達は戦争犯罪がバレずに済み、ミハイルは『心優しい幼なじみ』として逝った。
まさにWin-Win……!
ミハイル「せやな」
なにからなにまで自己保身のため生きてたハンスだったけど、最後の最後で、サンドラが愛した女を守るカッコイイ男になって逝ったのは、彼にとって『救い』であり、セラフィマへのせめてもの『償い』だったのかもなぁ……
まあ、『女を守ったカッコイイ女』に『女を守ったカッコイイ男』にしてもらったっていう締まらなさはご愛敬と思っとく。
* * *
それでは今回はこの辺で。おもろかったら下にあるイイネボタンを押していただけると元気と勇気とやる気が湧いてきます(*´ω`*)ノ
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おはようございます!
まだ本作読めてないけど、気になって読みにきました^_^←またかよ。すんません。
今回も読み応えのある読書感想でした。
進撃を絡めてくれるのが良い!
エレンディスりが入るたびに吹き出してしまう笑
特に心に響いたのは
「強き者」は「弱い者いじめ」をしない。
「弱い者いじめ」は「弱い者」がやる。
です。本当その通り。^_^
戦争という状況下で自我を保つことって容易ではないし、考える事を手放してしまった方がはるかに楽。
だけど、「自分は弱い人間なんだ。」と自覚して、なおかつ、それを忘れそうになった時に
思い出させてくれる仲間がいるかどうか。
セラフィマはそういう仲間に出会えて良かったですね。
正確には、自分の弱さではなく「人間という生き物は自己防衛の為、困難な状況下においては適応し、流されやすいもの」かな。
とわこさんの考察を読むと、いつも正しくありたいなぁと思います。
いつもは生活に追われて忘れてしまいがちな部分をとわこさんの考察を読むことで修正されるというか。
簡単に言うとシャキッとします。
セラフィマのように、とわこさんの考察に出会えた事は私にとっての幸運です。(妄信ではないのでご安心を)
ネット社会に感謝だわ。
早く読みたいから、購入しようかな。うん。
あ!あと私、ちょっと名前変えます。
むちむち→ニックにします^_^
他のSNSでこの名前にしてたので統一します。
ニックネームのニックです。単純。
でもニック司祭と同じか。
彼は信念に生きた人でしたよね。
たとえ間違っていようとも、信念の為にはあっさり命を投げ出し、拷問に耐え抜いた。
ハンジさんと友達だし割と好きなキャラです笑
という事で、よろしくお願いします!
では失礼します^_^
むちむちさん改めニックさん、コメントありがとうございます!
もはや隙あらば息をするようにエレンをディスってしまう。恋でしょうか?(違)
たしかにニック司祭も、色々苦悩した末に、手に入れた『信念』を守り抜いた人でしたね。
進撃は脇役に至るまで憎めない人ばかりで、最初は腹を立ててたハンジさんも、そういった人達の信念に触れて、理解を深めていった人だった。だから友達になれた。
中には、散々人の信念見て来たはずがまったく理解しなかったのもいたけど……(おやまた?)
私も考察では好き放題に書いてますが『自分が彼ら・彼女らと同じような状況に置かれた時、果たして流されることなく自分を保って生きることが出来るのだろうか?』と、自問自答してしまいます。
やっぱ、自分が痛い目に遭うのは嫌ですからね……さすがに調査兵団ガチ勢やセラフィマまではいかんでも、せめてヒッチやサンドラを目指したいところです。