同志少女よ、敵を撃て 感想と考察2 最後は愛が勝つ!?かしこいサンドラとダメ男ハンス
逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』の感想と考察その2。
今回は一般市民代表サンドラとダメ男代表ハンス・イェーガー。
前回の考察はコチラ
- 個人の感想と考察です
- 思いっきりネタバレしてますんで『ネタバレバッチコーイ!』な方のみどうぞ
- 軽く進撃の巨人が混じっちゃうのは勘弁してやってください
最後は愛が勝つ!?コウモリ女サンドラ
一般人代表・サンドラは、進撃で言うところのヒッチみたいな人でした。『自分のやれる範囲で最善を尽くす』ってところが。
作中の登場人物の中で、この人は『かしこく愛情深い人』だったと思う。最初と最後で印象が逆転するんですよね。いい意味で。
サンドラは、当初は典型的な『弱い女』としての登場だった。セラフィマ達と出会った後も、たびたび拠点に訪れては、ターニャから食糧をわけてもらっていた。
一方で、街を占領し、自分達を苦しめる敵国の兵であるはずのハンスの愛人をやっていた。しかも『仕方なく』やってるんじゃなく『愛している』と言った。
セラフィマはそれを理解出来ず衝撃受けていたけど、サンドラは『敵国の男』ではなく『1人の男性』としてハンスを見ていただけなんですよね。『ドイツ兵』という大きな枠組みで十把ひとからげに見ていたセラフィマとは違う。
とはいえ。街が解放された後は、サンドラの思いはどうあれ罪に問われることになったけど、彼女はセラフィマに『彼を愛したことが罪だというなら私は罪を受け入れましょう(要約)』と言って、『罪』から逃げることをしなかった。
だって『ハンスを愛した罪』から『逃げる』ってことは、『ハンスを愛したこと』を否定するってことになるから。
脱出用の船に乗らなかったのだって、船には『1人』しか乗れないから。でも彼女は『2人』だった。自分と、おなかの赤ちゃん。だから確実に『1人』であるハンスを乗せた。
まあ単に『この男と逃走しても苦労するだけやわー』という見限りかもしれんけど……あてもなく逃亡するよりは、罪人として連行されたほうがむしろ安全だろうし、自分と似た境遇の女性達と一緒という心強さ、なにより赤ちゃんまでは●されないだろうからね。
なんにせよ、サンドラは『自分の心』に嘘はついてない。本人が言った通り、その場その場で『最善』と思う選択をしただけ。
そういう意味では、彼女は『自分の心に常に誠実であろうとした』と言える。本来の意味での『確信犯』ってヤツ?
言い訳こいて罪から逃げてばかりのハンスとはえらい違い。
コウモリが削ったもの
さて、自分のことを『コウモリ女』なんて言ったサンドラ。
『コウモリ野郎』といえば進撃の巨人にはヴィリー・タイバーさんがいたけど、同じコウモリでもこの人とサンドラが決定的に違うのは、タイバーさんは『保身』のために『他人を削った』んだよね……
進撃でもそういうシーンあったよね。たとえば前半の『死んだ甲斐があったな』とか『心臓を捧げよ』は『誰かのために我が身を削る言葉』だった。
しかし後半の島民達が吐いた『死んだ甲斐があったな』『心臓を捧げよ』は『自分のために他人を削った言葉』だった。
削ったものは『自分』か『他人』か。『セリフ』は同じでも『意味』も『重み』も全然違う。
ハンスは『他人』を削った。保身のためなら、なんでもかんでも人のせいにした。
サンドラは『我が身』を削った。
そりゃあサンドラには『他に削れるもの』がなかったからかもしれないけど、実は削れるものはあったんですよ。それはおなかの亡き夫の子。
もしサンドラが独り身なら、たとえ飢えても敵兵の情婦になんかならなかったかもしれない。
でも彼女には『敵への憎しみ』だの『自分のプライド』だののために『おなかの赤ちゃんを削る』なんて出来なかった。
だっておなかの赤ちゃんには、敵がどうのプライドがどうのなんて関係ないじゃん。
母ちゃんが栄養あるもの食べてくれなきゃ、それはそのまま、赤ちゃんに影響出るわけでして。
そりゃあ葛藤もあっただろうね。旦那さん亡くなったばっかなのに、他の男と寝るなんて。でも赤ちゃんは待ってくれない。
サンドラの戦場
『ハンスと過ごした時間』って、サンドラの『戦場』だったんだろうなぁ……
戦場では『起点』を忘れなきゃいけないんですよ。
サンドラの『起点』は『おなかの亡き夫の子』だった。
しかし『戦場』ではそれを忘れた。
そうすることで、サンドラはハンスを愛することが出来た。
そしてハンス(戦場)が去ったら『起点(赤ちゃんと亡き夫)』へと戻った。
それが出来たのは、そもそもサンドラが『愛情深い人』だったからじゃないの?
サンドラが『愛情の薄い人』なら、ハンスの愛人になんてならなかっただろうと思う。そうすりゃ、処罰されることもなかっただろうし。
でも『それって誰のため?』って聞かれると、どう考えても『自分のため』でしかない。
さっきも書いたけど、『おなかの赤ちゃん』にはなんの意味もない。おなかの子は栄養失調で体の弱い子に、最悪、ダメになったかもしれない。
そしてサンドラ自身は『私はかわいそうな被害者です』と泣いて暮らすことになったかもしれない。
それって結局、『誰のため』にもなってない。
もしくは、親としての義務感だけで『仕方なく』ハンスの愛人になって食糧を得ようとしたんなら、それはそれで『体を売った』ということになるし、おなかの子にしてみりゃあ『自分のせいで母ちゃんは泣く泣く体を売った』なんてことになる。
亡くなった旦那さんにしても『自分が死んでしまったせいで妻がこんな辛い目に!』ってことになる。
最悪、サンドラ自身も子供に対して『この子がいなけりゃ私はこんなことせずに済んだのに!』って思うようになるかもしれない。(進撃ではヒストリアの母ちゃんがこのタイプだな……)
ハンスがよく『仕方ない』って言葉使ってたけど、この場合の『仕方ない』って『強大な力に屈した』って意味の言葉だよね?
屈した末に待ち受けるのは、全方面、不幸になる未来。
でもサンドラは『愛情深い人』だった。
だから周囲から冷たくされてもおなかの子を支えに耐えることが出来たし、敵国の男だろうと『愛すること』で自分のことも守った。『私は仕方なく体を売ったのではなく、愛する人と過ごしただけ』と胸張って言えるように。
それが出来たのは、亡くなった旦那さんを本当に愛していたからなんだろうなぁ……愛していたし、愛されていたなら、『泣いて暮らす』なんて絶対ダメでしょ。おなかにいる子供のためにも。
結局この人、なんにも捨ててないよね。
最初『どっちの味方だ!』なんて責められてたけど、サンドラが出した結論は『どっちかの敵にならなきゃいけないなら私は罪深いコウモリでいい』だった。
その結果、自分の女としての誇り、おなかにいる亡き夫の子、セラフィマ達、ついでにハンス、見事に全部守り抜いちゃった。なんという強欲。
女は弱し。されど母は強し。
登場時は『我が身の保身のため』にふらふらしてるように見せかけて、フタを開けて見ると、大きな力を前に『かわいそうな被害者』として屈するどころか、男を手玉に取っていた。
そして我が身を含め守りたいものをすべて守り抜く強さ、そして『罪』から逃げたりもしなかった誠実さも持っていた。
それらを見せてくれたサンドラは、ヘタすりゃセラフィマ達よりたくましい女性だった。
情けなさ濃縮原液 ダメ男代表ハンス・イェーガー
なんでもかんでも人のせいにする情けなさ、高いヒモの素質、まさに『人間の悪いところ』の濃縮原液。それがハンス・イェーガー。
進撃の巨人でいうところのジーク・ヒモーガーさんとエレン・ヒモーガーさんでした。
ヒモーガー兄弟『勝手に改名すんな』
地味に腹立つのが、『超☆自己中』だったおかげで毎回きっちり生き残り、そして狙撃もめっちゃ強くなったってことかな……
さて、セラフィマにとって母の仇のラスボスだったハンス・イェーガー。
初登場の時は婦女暴行する仲間に嫌悪示したり『冷徹なスナイパー感』醸し出してたけど、実際に会ってみると『言い訳』と『自己保身』の塊という情けない男だった。
『ラスボス』って、『強敵と書いてトモと呼ぶ』ってくらいカッコよくあって欲しいところだけど、ハンスは『カッコつけてただけ』のクソダサ野郎だったよね。(火の玉ストレート)
しかしサンドラは、こんなハンスを『いい男』と言ってたんだよね。
それ、たまに、しかも限られた時間しか会ってないからやで……
ハンスとサンドラ、2人を隔てる壁
ハンスとサンドラ、この二人がうまくいってたのは『壁』があったからだと思う。
まず状況の壁。
ロミオとジュリエットみたいなもん?
『禁断の愛』とか、『ダメ』と言われれば言われるほど燃え上がるヤツ。
サンドラは夫を亡くし、ひとりぼっちで辛い状況。
ハンスからすれば、サンドラと一緒にいることで『俺が守ってあげなきゃ!』という使命感や『弱き者を守る強い俺』に酔える。
そして言葉の壁。
言葉が通じないから、雰囲気で脳内補正するしかない。逆に言うと、いかようにでも都合よく解釈できる。
そしてハンスがたどたどしいロシア語で話してくれるのも、サンドラにしてみれば『私を理解しようと努力してくれてる!』と思えて、好感度上がったろうね。逆もしかり。
けどそれ『最初から言葉が通じていたら上がらない好感度』なの。
ハンスが努力してたのはヤリたいからなの。
『ヤリたい』から貢いだり愛の言葉ささやいたり努力したんだよね?
『ご褒美』が得られないなら来ないよその人。
とはいえ。それ、サンドラも同じなんだよなぁ。
ハンスが手ぶらで来るようになったら、サンドラもハンスに用がなくなるから、居留守使って家に上げなくなるんだろうね。実際、貢ぐ品がしょぼくなると顔に出たし……
言うなれば『どっちもどっち』。
でもサンドラは『愛』に対して筋を通したぶんマシ。
ハンスの愛の形
『愛』に筋を通したサンドラに対し、ハンスは最終的に置いてったんですよね。サンドラを。『自分がどうなっても、彼女は助けなければならない』なんて思ってたようだけど、思ってただけで、行動には何一つ反映されてないよね?
ハンスの『愛』ってさ。『自分にとって超・都合よく解釈してあげること』が『愛』だったよね。
スパム缶ひとつとっても、(自分にとって)めっちゃ都合よく解釈してたよね? 単に口に合わなかったとか、ロシア兵じゃなきゃ手に入らないなんて知らんかっただけとか、そんなんだと思うよ……
サンドラが用意してくれた船に乗る時も『サンドラの気持ちを無駄にしちゃいけない!』と『サンドラのありがたいご厚意』に全力で甘えたよね?
『助ける』どころか『助けられてる』じゃねーか!
ホントに『愛していた』んならさぁ、自分1人で逃げたりしないよね?
なんならさぁ。『君が乗らないなら俺も乗らない!』って男気見せてもよかったわけだよね? 『愛していた』ならば。
まあ、別に『サンドラを愛してた』ってのは嘘じゃないと思うよ。そうでなきゃ『サンドラ●したでー』ってセラフィマの挑発に、あんなにキレたりしないだろうし。
でも、サンドラよりも我が身はもっと大事だったってだけだよね?
サンドラはハンスのことを『いい男だった』『平和な世界で会いたかった』なんて言ってたけど、ホントに『平和な世界』で出会っていたとしても、この男、あれこれ理由をつけては定職につかんと女の部屋に入り浸り、ヒモってる姿しか想像出来んわ。
『俺は家畜にはならない!』『俺は自由だ!』と言ってるヤツほど『女のペットになるのはOK☆』ってヤツばっかだもんね? うーん、これは実にヒモーガー。(嫌味)
結局この二人がうまく行ってたのって『戦争』という『非日常』、そして『敵国の男と女』という『禁断の関係』だったからだと思う。『壁』がなくなると、とたんに冷めて破局するカップルだろうね……
あー、だから最後、サンドラは「彼を愛していた(過去形)」「今は亡き夫を愛している(起点に戻った)」とセラフィマに言ったんだな……やりおるわ。
やっぱ、サンドラのほうが一枚上手だった。
ハンスとイリーナ、どっちが優れた教師?
ハンスにはベルクマンという教え子がいたけど、イリーナと対比になってたよね。
イリーナは『戦場において私情で敵を撃つな』と教えた。まさにリヴァイ。
一方ハンスは、ベルクマンに『いかに自分の心を守るか』の手ほどきをした。
この『手ほどき』って、要約すると『俺らがなにをやっても全部戦争が悪いんであって俺らは何も悪くない』って責任転嫁することだった。まー、ジークとクサヴァーさんと同類……
それにしてもこの『手ほどき』、昔のセラフィマに似てる。
訓練兵の頃、牛を撃てなかったシャルロッタに、セラフィマは「誰が、いつ、どうやって●したかなんて、誰も気にしない」「だから、私達が●したことにならない」と言った。
セラフィマ本人も違和感を覚えたこの発言だけど、これ、ハンスの「自分たちが銃における引き金であって射手ではない(だから俺らが●したことにならない)」ってのと意味同じ。
でもセラフィマは、当時訓練兵だったんよ……
考え方が『未熟者と同じ』ってことは、それってつまり未熟者ってことだよね?
許されたイリーナと許されなかったハンス
たしかに『牛を●す』にせよ『敵を撃つ』にせよ、誰かがやらなきゃいけないことだし『自分が●したことにならない』というのもある意味正しい。
しかしイリーナは「狙撃兵は匿名性の陰に隠れることは出来ない」「常に自分は何のために敵を撃つのかを見失うな」と教えた。
ハンスとイリーナの『違い』は責任の有無。
イリーナは『撃つことの責任は背負え。それが出来なければ死ぬ』だった。
ハンスは『戦争が悪いんであって自分悪くないもん!』だった。
どっちが優れた教師か? そらイリーナだよ。
だって『ハンスの教え(俺が●したわけじゃないもん!)』が正しいのなら、なんでハンスの前にセラフィマが現れたん? って話なわけでして。
しかもイリーナは、自分がしたことに対して『一切の言い訳』をしなかったんですよ……どんな理由があろうと『事実』は『事実』として、その『責任』を背負っていたから。
おまけに、初対面の少女の『生きる理由』に自分がなれるなら、悪者にだってなった。
一方ハンスは、責任を背負うどころか『全部戦争が悪いんだから、俺、許されたっていいよね!』とすら思っていた。
『許すかどうか』を決めるのは『被害者』であって『お前』じゃねぇんだわ……
『かわいそうな誰かのためなら我が身を削れる』。それがイリーナ。
『かわいそうな俺のためにお前が削られてくれ』。それがハンス。
だからセラフィマは、イリーナは許したがハンスは許さなかった。
ハンスの敗因
『ハンスの敗因』は色々あっただろうけど、まずセラフィマを侮ったこと、冷静さを欠いたこと。そして『恋人の写真入りペンダント』『誰かの形見の懐中時計』の類いを懐に入れてなかったこと。(重要)
ハンス「それで止めれましたかね、銃弾……」
何より一番アカンかったのは『保身のために戦った』こと。
前回の考察で書いたけど、イリーナの『戦場では起点を忘れろ』ってのは『私情で敵を撃つんじゃねぇ』という意味だった。
しかしハンスは、完全に私情でセラフィマを撃とうとしたよね?
しかもそこに『サンドラ●したでー』と書かれたセラフィマのメモを見て逆上し、ますますセラフィマを撃つことにこだわってしまった。狙撃兵はクールじゃなきゃいけないのに「死ねぇ!」なんて負けゼリフゆーてもーたり。
どっちを選ぶかでわかるハンスの生きざま
しかしここで疑問。ハンスは『なんでもかんでも自分の都合のいいよう解釈する男』の割に、二冊目のノートの巻末に入っていた『サンドラ●したでー』というメモは一切疑わず信じたんですよね。
『自分の都合のいいことしか信じない』んなら、『嘘だ! そんなことは信じない!(サンドラ生存を信じる)』のほうが『都合がいい』はず……
セラフィマは、ハンスに「お前のように卑怯には振る舞わない」「市民が殺されるなら、それを必ず止める」と言ってるんですよ。
おまけに、ご親切に「私は二冊目のノートの巻末になりもしない(ノートの巻末は嘘やで)」とまで教えてくれてたのに。
だというのに、それらは信じず、どういうわけかハンスにとって『都合が悪い』はずの『サンドラの死』のほうを信じた。それはなぜか。
『残忍な女狙撃手にサンドラは無残に●された』のほうが、自分にとって『都合がよかったから』じゃないの?
【メモ書きを『嘘だ! サンドラは生きてる!』と解釈する】
セラフィマは『信念』に基づいて戦う立派な人だと俺は信じます。そしてそんなセラフィマを撃とうとする俺は、自分の保身のためにしか戦わない卑怯者であると認めます。
【メモ書きを信じ『サンドラは無残に●された』と解釈する】
相手は嘘つきで残忍なロシア兵で、俺はその残忍な悪党を撃ち、恋人の仇を討ったヒーローです。
こうなるもんね?
ハンス自身『自分に都合の良いことがノートに書かれているわけがない』ことはわかっていたはずなのに、一周回ってむしろ『自分に都合のいい解釈』をしてしまったの、『それまでの生き方』がモロに反映されたんやわ。
だってハンスは『全部戦争が悪いんであって自分はなにも悪くない』と思って生きてきたから。
しかもメモを見た時点で、ハンスはすでにオリガを撃ってるんだわ……『自分が悪かった』と思ってたんなら、もう『戦う必要』なんてなかったはずなのに。
だからこれ、ハンスにとっては二択のようで一択だった。
たしかにハンスは、セラフィマに『許してください』とは言った。
『ごめんなさい』は『悪いことをした人』が被害者に『自分の非を認め、許しを請う』ために言う言葉。
村人虐殺に『正当な理由』があったんなら、いっそ『ごめんなさい』なんて言わずに堂々としてりゃあいい。なのに謝ったってことは『正当な理由じゃない』『悪いことしてる』って自覚、あったってことだよね?
それなのに『悪かったと思ってる。許してください』と言った直後に『全部戦争が悪いんです! あいつらが悪いんです! 俺は悪くありません!』と真逆のことを言い出した。
『自分の非は認めないが許しだけはよこせ』とはこれいかに?
その根拠としてハンスは『自分は虐殺には加わらなかった』と言い張っていたけど、でもあなた、セラフィマの母・エカチェリーナ撃ったじゃん。
エカチェリーナを撃ったことの意味
授業でイリーナが言ってたよね。「狙撃兵の特異性はその明瞭な意志により敵を狙い、撃つことにある」って。
つまりハンスは『ハンスの明瞭な意志によりエカチェリーナを狙い、撃った』のは間違いないんですよ。
ハンスよ、それがすでに『虐殺の荷担』だ……!
『俺は虐殺に荷担しない!』と言う信念があるって言うんなら、虐殺を阻止出来るかどうかは別にしても、母ちゃんに撃たせてあげりゃあよかったじゃん……だって『あいつらは仲間じゃない』んでしょ?
でもそうしなかったのは、母ちゃんが撃つのを見過ごせば、自分が無能だと責められるからだよね? 『お仲間』に。
すなわち我が身の保身。
これがまだ、どっかの鎧の巨人継承者のように『仲間を守るためとは言え、お前の母親を撃ったのは事実。俺にも彼らと同じ罪がある』とか言うなら、まだ好感度は上がった。
↑パーフェクト回答例
そうすれば、もしかするとセラフィマは二冊目のノートのことは知らせず、ハンスを許す気になったかもしれない。
けどハンスは最後まで『悪いことしたと思ってます。でも俺は嫌われてたしあいつらと関係ない。むしろ俺も戦争の被害者ですぅ!(要約)』だった。
お前絶対『自分が悪いことした』なんて思ってないだろ……
本人は大まじめに謝罪してる『つもり』なんだろうけど、言ってる内容要約すると『俺を楽にするためお前は俺を許してくれ』と被害者に要求してるんですが。
そもそも『許し』を求める前には『償い』をする必要があるのに、それをすっ飛ばして『許し』だけを要求?
火に油注ぐ選手権チャンピオンかな?
なのに『こんなに謝ってるのに許さないなんてひどい!』って被害者面するんでしょ? 知ってる。
おまけにその後、ハンスは『自分の戦争犯罪知ってるセラフィマを生かしておくわけにはいかない!』って、もはや敵の狙撃兵撃つ必要もない状況にも関わらず、オリガを撃ち、セラフィマも撃とうとしたよね?
ハンスのお仲間は「いまさら敵狙撃兵を撃ってどうなる。とっとと脱出したらどうだ」と言ってくれたのに。仲間、超親切……!
ハンスが本気で『俺が悪かった!』って思ってたんなら、そもそもセラフィマ撃とうなんてせんからな……ハンスにちょっとでも『罪を償う誠実さ』があれば、オリガも死なずに済んだしハンス自身も死ななかったのに。
ハンスは『狙撃手だから嫌われてる』なんて言ってたけど、ぶっちゃけ『狙撃手だから』嫌われてたんじゃなくて『シンプルにお前がクズ』だから嫌われてたんだと思うよ。(辛辣)
自己保身男の末路
さて、ハンスのキャラクターをまとめると『なんでもかんでも自分の都合のいいよう解釈する』『悪いのはいつも自分以外の何かのせい』『自分のやることは全部正しい』『責任は一切取らない』……うーん、これはジーク・イェーガーとエレン・ヒモーガー。
結局ハンスって『我が身を犠牲にしてでも守りたいもの』がなかったんだろうね。
あったとしても『自分ほどじゃあなかった』。
『愛する自分のため』なら、仲間を悪者に出来るし恋人が無残に●されたことにも出来る。
なぜならハンスは『自らに対して普遍的な信念』を持っていなかったから。
セラフィマを信じていれば、ハンスはノートの巻末を『嘘』と見抜き、敗北しなかったかもしれない。
しかしハンスは、誰も信じない無責任で『孤独な男』だった。
自分が『信念』を持っていないもんだから、『信念を持っている人の存在』を信じることが出来ず、『自分に都合のいいもの』しか信じなかった。そのほうが『楽』だから。
その結果、冷静さを失い、有利なはずの相手に撃たれた。
『自己保身』のためならなんでも人のせいにし、卑怯なことだってやってきたハンスだったけど、その『自己保身』が原因で、ハンスと真逆のイリーナに育てられたセラフィマに敗北したってのは、なんとも皮肉な末路だったよなぁ……
セラフィマVSハンス戦はセラフィマの勝利ではあったけど、イリーナとその教え子達、『みんなの勝利』でもあった。
* * *
それでは今回はこの辺で。おもろかったら下にあるイイネボタンを押していただけると元気と勇気とやる気が湧いてきます(*´ω`*)ノ
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本書を入手し読み終えた頃、前回と今回の考察記事を読みました。そもそも主人公が女性では無かったら、尊厳を持って自分の人生を生き切る事をテーマに出来なかったのではないかしら、というのが感想です。主人公のフィーマが少女から一人前の女性になるまでの同じ年頃の青少年が主人公だったら、狙撃する事がゲームのポイントを稼ぐような内容になっていたのでは無いかと感じました。同い年の男性なら幼馴染みのミーシャがいて、再会から決戦までは建前で生きていられた彼の行動が、敵を倒した勢いで敵国の女性を虐げるのを肯定する。男性目線ならこれは仲間意識を強め、指揮を鼓舞するものとして肯定されていたでしょう。ドイツ側のハンスとユルゲン、ソ連側のミハイルとドミートリーは男性の思考としては、国を守った褒美に敵国の女性を虐げても何ら悔いは残らない。守る国は有っても、守る対象の顔が見える個人がいない。イリーナのチームで戦後も生き続けられた人は、愛する個人、生き甲斐を持ち続けられた人達。途中退場したオリガは、自分の役目を生き切り、護りたい者を手段を選ばず、何をしても護り切った、体制の枠の中で精一杯戦った人物だと感じました。ターニャの「敵味方関係なく、人を治す」という信念、サンドラの愛する人物を守るという信念、イリーナの盟友リューダの「人に死を与えた自分の生きる意味を忘れるな」等、行いの責任は自身が引き受けるという意識と生き方が、戦場である日常(当然、大戦後も。戦士だった女性への周囲の目は厳しい)を乗り切らせた原動力だったのでは無いかと感じました。
進撃の巨人の登場人物に当てはめての自分なりの想定は、セラフィマ=ジャン、シャルロッタ=コニー、ヤーナ=サシャ、オリガ=104期ユミル、アヤ=マーレ国内でのガビ、ターニャ=ハンジさん、イリーナ=兵長、リューダ=エルヴィン、サンドラ=ヒッチでした。エレン=ハンス・イェーガーで、責任の所在は「自分では無く、他の人が持つ」と他者依存しているのが、帰る場所を持たない根無草認識な奴、と、おおいに敵視して読んでしまいました。
コメントありがとうございます!
このお話は『主人公が女性だからこそ』のお話でしたね。
そもそも女性は無理して戦場に行く必要がないから、男性達より『強い動機』と『強い意志』の力を持っている。だから『起点』を見失いにくく、たくましくなるのかもしれませんね。
男性であるミハイル目線だと、彼も彼なりの苦悩があって、理不尽な目にもいっぱい遭ったのでしょうが……
ハンスのほうが、最後の最後で女守って逝ったぶん、エレン・ヒモーガーさんやミハイルよりは愛嬌のあるヤツでした。ある意味、セラフィマの『運命の男』ってミハイルじゃなくてハンスだったのかも?(サンドラの『いい男』はあながち間違いでもなかった……?)
責任背負う覚悟を決めれば、彼らも、リヴァイまでは無理でも、ジャンやコニーくらいには近づけただろうに、ミハイルとその部下達の関係は『仲間』というより『共犯者』、ハンスは一人ぼっちと、『真の仲間』が存在しなかったこと・作ることが出来なかったことが、彼らの不幸であり、『弱さの原因』だったのかもしれません。
その辺は、次回の考察で詳しく。
結局、ミハイルのチームとイリーナのチームとの違いは『戦争』に『何か』を求めたか求めなかったかの違いではないでしょうか。
その辺はリューダの『ネジ職人の話』が関係していると思いますが、今後の考察で書いていく予定です。
こんばんは。
ハンスってハンス・イェーガーだったんですね(*゚▽゚*)
同志少女はハヤカワのクリスティー賞受賞ということでチェックして未読なままでしたが、
とわこさんのこの「進撃の同志少女」を拝見して俄然、興味を持ちました(笑
追って水星の魔女のほうも拝見しますo(^-^)o
コメントありがとうございます!
私も最初、ハンス・イェーガーさんが出てきた時は「おっ」と思ってしまいました。ドイツ人だしスナイパーだからこの名前にしたんだろうなとわかっていても、どうしてもあっちのイェーガーさんを思い出してしまう進撃脳(笑)
『同志少女』は、戦時下の辛い環境でも、たくましく生きる魅力的な女性達が登場するのでオススメです!