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同志少女よ、敵を撃て 感想と考察4 与えたイリーナと搾取されたリュドミラ

同志少女アイキャッチ

逢坂冬馬氏の『同志少女よ、敵を撃て』の感想と考察その4。
今回はセラフィマを狙撃手に育てたイリーナとその戦友のリュドミラ。
ポジション的には似たもの同士だったのに、まったく違った結末になってしまった2人でした。

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前回の考察はコチラ

同志少女よ、敵を撃て 感想と考察3 他人を悪魔にしたミハイルと自分が悪魔になったセラフィマ

  • 個人の感想と考察です
  • 思いっきりネタバレしてますんで『ネタバレバッチコーイ!』な方のみどうぞ
  • 軽く進撃の巨人が混じっちゃうのは勘弁してやってください

自分に厳しいイリーナ

セラフィマを狙撃手に育てた女狙撃手。進撃でいうところのリヴァイ兵長だった。
他人に厳しい人だったけど、自分にはもっと厳しい人だったよね。

進撃の巨人59話[ 諫山創 ]

進撃の巨人59話[ 諫山創 ]

イリーナと同じ隊長職だったミハイルは『自分にも部下にも激甘』だったから、みんなして『戦う理由』を見失っていったけど、イリーナは他人にも自分にも厳しかったから、彼女の部下達は己を甘やかすことなく信念を守ることが出来た。

そして自分に厳しいイリーナは、『その人のため』になるのなら、自分が悪者になることもいとわなかった。セラフィマとの関係がまさにそう。
セラフィマは初対面のイリーナに『戦うか死ぬか』問われた時、『死にたい』って言ったんだよね……なのにイリーナは、セラフィマがキレて『●す!』言うまで追い詰めたり。

いやあんた、本人もう『死ぬ』って選択しとるやん! 二択突き付けといて一択!

この時、イリーナの部下の男たちもいたけど、そらもうセラフィマのことを『かわいそうな被害者』として腫物を触るみたいに気遣ったりと、むしろ男達のほうが『いい人』だった。

しかしセラフィマにとって彼らは『どうでもいい人』だった。
彼らでは、セラフィマは『すべてを失ったかわいそうな女の子』にしかなれなかったから。

だがイリーナは違った。

彼女は自らセラフィマの『どうでもよくない人』になり、抜け殻となった彼女の『怒り』を目覚めさせた。
復讐だろうがなんだろうが、『生きる目標』がその時のセラフィマには必要だったから。そのためなら、自分が悪者になることをいとわなかった。
その結果、これ以降セラフィマが『死にたい』なんて言うことはなくなった。

イリーナの失敗

セラフィマに生きてもらうために悪者になったイリーナだけど。
生かすために『戦場』という『死地』に送り込むという矛盾に苦悩もしてたよね……

少なくとも、アヤに関しては悔いが残っただろうなぁ……アヤの『優秀さ』を信頼しすぎたんだろうか。
アヤは『狙撃手』としては優秀でも、『人間』としては未熟な少女だった。
イリーナはセラフィマ達に『アヤの死を教訓にしろ』と言ったけど、一番『アヤの死』を『教訓』にしたのはイリーナじゃない?
だからこそ『二度目』があってはならなかった。

リヴァイも『二度目』があってはいけなかったから、新リヴァイ班には気を使ってた。ジャン達の覚悟が育つまで『危険なこと』『嫌なこと』は率先して自分がやったし。まさに理想の上司。

スターリングラードで、セラフィマも危うく『第二のアヤ』になりかけたんだよね。イリーナがセラフィマと行動するのが多かったのは、一番危なっかしかったからじゃあ……?

セラフィマを守るため、セラフィマの気持ちを踏みにじってでも戦線離脱させようとしたり、まさに『親心』。セラフィマは『親の心子知らず』で、ハンス撃ちに飛び出しちゃったけど。

イリーナの『目的』

イリーナは『狙撃手を育てる』という名目で、戦争で故郷や家族を失った『訳あり』の少女達を集めた。
傍目には、身寄りがなく、失うものがない少女達を『戦争の道具』にしてるとも言える。だから『魔女』なんて呼んだ。
でも『たくさんの狙撃手を育てた優秀な先生』になるのがイリーナの目的だったのなら、矛盾がある。

狙撃手に育ったのは、たったの4人だったから。(所属の違うオリガ除く)

自分が『たくさんの狙撃手を育てた優秀な教師』になるため少女達を集めたのなら、『憎しみ』と『●し方』だけを教えりゃよかった。
なのにイリーナはそうしなかった。それどころか『常に自分は何のために敵を撃つのかを見失うな』と、自分の頭で考えさせた。
考えた結果『人を撃つなんて無理!』と思った子はどんどん辞めてった。

おかげで上からは『おまえんトコ、脱落者出過ぎー!』と文句を言われた。『上』からすればむしろダメな先生。
しかし生徒からすると、本人の意志を尊重し、アフターケアまでバッチリの、理想の先生だった。

つまりイリーナの目的って『狙撃手を育てる』じゃなかったってことじゃないの?

だって『そういうつもり』で育ててたんなら、『敵を●す』ことを『超いいこと』として教えたはずだから。

イリーナの『強さ』の秘密

進撃の巨人で『敵を●すこと』を『超いいこと』と教わったのがガビやライナーといったマーレの子供達。
素直なガビは『超いいこと』を無邪気にがんばった。

進撃の巨人91話[ 諫山創 ]

進撃の巨人91話[ 諫山創 ]

そしてそのことに疑念を向けられると反発し『超いいことだ』と信じ続けた。ガビも、幼き頃のライナーも、完全に『思考停止』していた。

進撃の巨人94話[ 諫山創 ]

進撃の巨人94話[ 諫山創 ]

その結果、仲間を危険な目に遭わせ、自身も憎しみの刃を向けられ、故郷どころか世界滅亡のピンチにまで陥った。
『同志少女~』でも、『そういう育てられ方』をしたのがほとんどだったんだろうと思う。

一方イリーナは『仲間を守ったこと』『敵がもう、誰の命も奪わないようにしたこと』を誇れとは言っても、『敵』を撃って喜ぶセラフィマを褒めたりなんてしなかった。
『責任からの逃げ方』を教えたのがハンスだったけど、『集団性とそれによる匿名性の陰に隠れることは出来ない』と教えたのがイリーナだった。

そんなイリーナと同じ育て方をしてたのがリヴァイ。

進撃の巨人59話[ 諫山創 ]

進撃の巨人59話[ 諫山創 ]

104期を育てたリヴァイは、ある程度自分の考えは伝えたものの、押しつけるようなことはせず、本人達に考えさせた。『何が正しいか』なんて誰にもわからないから。
『わからない』からこそ、各自、『自分なりの答え』を見つけるしかなく、そしてそれは他人が教えるものじゃないと思っていた。

その結果、彼らは圧倒的不利な状況下であろうと『自らの強い意志の力』で決断し、強大な力に立ち向かうガチもんの強い子に育った。
……なぜか育つどころか退化したガチもんのおバカもいたけど……(遠い目)

結局、『強さの秘密』があるとしたら、そこに『自分の意志』があるかどうかじゃないかと思う。
イリーナは「常に自分は何のために敵を撃つのかを見失うな。それは根本の目標を見失うことだ。そこで死を迎える」と教えた。

もちろん『決断は他人任せで言われた通りのことしかやらない』でも、それなりに強くはなるだろうけど、『考えること』を放棄してる。
だからそういった人達は、戦後、途方に暮れ、苦しんだ。

一方、一人一人が自分の頭で考え続けたイリーナの教え子達は、戦後もたくましく生きた。

『搾取』されたリュドミラ

リュドミラは進撃で言うところのエルヴィンだった。周囲からは『超すごい人』と認識されていたけど、内側には『超・人間くさい弱さ』を秘めていた。

進撃の巨人 80話[ 諫山創 ]

進撃の巨人 80話[ 諫山創 ]

最期はアル中でお亡くなりってのもリアルだな……エルヴィンも生き残ってやることなくなったらそうなりそうだもん。ハンジさんならアル中になる暇もなくヒャッハーするだろうけど。
そして『搾取』されたのは始祖ユミルちゃんみたい。

リュドミラは登場した時点で、狙撃手としては引退してたんですよね。
でも、外交で海外に行ったりはしていた。セラフィマ達の前にも、狙撃手としての指導のために現れた。

戦後は、学位を取ったり本を出したりはしたものの、晩年は酒におぼれ、孤独に亡くなった。
結局彼女は、『戦争』に搾取された奴隷のような人だった。

『仕事』に何も求めなかったネジ職人

リュドミラや他の大勢の兵士の戦後が残念なことになった理由、その答えは彼女が語った『ネジ職人の話』にあると思う。

ネジ職人は『仕事』に何も求めなかったんですよね。

彼はただ『生活のため』に仕事をしてただけ。それがたまたま『ネジ作り』だっただけで、ぶっちゃけパンでも靴でも同じだったと思う。
彼にとって『当然のこと』なのに、しかし彼を取材した人や見学してた生徒達は、彼の回答にガッカリした。
この子達は『すごいこと』を続けるには『すごい理由』がなくてはいけないと思っていたんだろうね。

子供達にとって『日々の平穏な暮らし』は『当然のもの』であって『すごいもの』ではなかったから。

しかし職人は『すごくもなんともないもの』のためにネジを作り、そもそも『すごいこと』なんてやってないと言う。

だからガッカリした。

この『退屈な日常』が『誰かが守らなければあっという間に壊れる特別なものだ』なんて知らなかったから。
『幸せ』とは『ここではないどこか遠くにある特別なもの』であり、それを求めていたから。

みんな『青い鳥症候群』だった。

『戦争』に何かを求めた兵士たち

どうせなら『やりがいのある仕事』をするにこしたことはない。
しかし『仕事』はしょせん『仕事』。『仕事』とは『生きるためにするもの』であって、『仕事』のために生きるなんて、昭和のモーレツ社員。
家族をかえりみず『会社』にすべてを捧げたところで、その『会社』はいずれ退職金だけ払ってサヨナラ。
のこのこ『家族』の元に戻ろうとしたって、そこに居場所はない。
残るのは『なんのために働いていたんだろう』という『むなしさ』だけ。

ましてや『戦争』なんていつか終わる。むしろ終わってくれなきゃ困る。
なのに、彼ら彼女らは、モーレツ社員のように『戦争』にすべてを捧げてしまった。
だから『俺達の戦争はなんだったのだろう』とむなしさを抱いた。
孫の誕生が楽しみで仕方なかったネジ職人とは逆。

これは……! 逆やりがい搾取……!

『この仕事が好きで好きでたまらない!』って人を薄給でこき使うのを『やりがい搾取』と言うけど、『人を●すなんて嫌だ。でも誰かがやらなきゃいけないんだ!』と『使命感』を植え付けたり、『憎い敵をどんどん●しましょう!』と『復讐心』を育てたりして、まるで『戦争』を『意味のあること』のように錯覚させてこき使うのも搾取。

リュドミラは『復讐の場』として『戦争』を求めた。
復讐に自分のすべてを捧げた結果『人を大勢●した』という事実以外何も残らず、『戦争』に搾取された。

ミハイルは『戦争』に『ご褒美』を求めた。
ところが『戦争』に見返りはなく、その現実から逃避するため『女性』に手を出した。
結果、セラフィマに頭を撃ち抜かれた。

進撃だとエルヴィンや始祖ユミルちゃんがそんな感じ。
エルヴィンは知らず知らずのうちに、『使命』と『自分の夢』を混同してしまっていたのだろうと思う。だから『使命』に散った仲間達を『自分の夢の犠牲』にしてるみたいで苦悩した。

進撃の巨人76話[ 諫山創 ]

進撃の巨人76話[ 諫山創 ]

でも最後は『夢は夢』『使命は使命』ときっちり区切り、『夢』は後に続く者に託し、自分は『使命』に何も求めることなく戦った。

ユミルちゃんも『王様の命令』に従ってひたすら『仕事』をしてしまったのは、いつか『愛』を返してもらえることを『期待』してしまったからじゃないかと思う。

しかし『褒めてくれる王様』なんてどこにもいなかった。それどころか王様はユミルちゃんをピ●ミンかのようにこき使ってただけ。
でもユミルちゃんはピ●ミンじゃないので、王様の愛を『期待』してしまった。だから搾取された。

ピクミンブルーム

ピクミンブルームより

ピ●ミン「わたしたち、愛してくれとは言わないよ!」

一方、ネジ職人は『仕事』に何も求めなかった。彼は、労働に対して見合ったお給料さえもらえればそれでよかった。
だから『すごいですねー』と褒めてもらうよりも、もうすぐ生まれる孫のほうが楽しみで仕方なかった。

これはイリーナが言った『起点を持て』だよね。『なんのために戦うのかを忘れるな』と彼女は言った。

ネジ職人はなんのためにネジを作ったのか

ネジ職人は『愛する家族との暮らし』のためネジを作り続けた。彼の『起点』は『ネジ作り』の『外側』にあった。
仕事の間は『起点(家庭)』を忘れ、仕事が終われば『起点(家庭)』に戻った。『起点』が『外側』にある限り、たとえ『ネジ作り』の仕事がなくなっても、彼はきっと別の職場を見つけ、再び家族のために働いたに違いない。
結果、誰からも搾取されることもなく、愛する家族と幸せに生きた。

これはセラフィマ達と一緒に戦ったフョードルさんと同じ。
彼は『愛する家族』という『起点』があったからこそ戦い、そして戦いが終われば『家族』の元へ帰った。

ボグダンは『女を行かせたら死んだ女房に顔向けできない』とセラフィマに代わって子供を助けに行き、ユリアンも『同級生のピンチ』を救おうとしたけど、『他人の起点』を悪用した卑怯者に撃たれた。

マクシム隊長は、家族という『起点』を失い、家族同然だったユリアンも失い、最後の『起点』だった『家族と過ごした家』も爆破されると知り、『起点』と共に散る選択をした。
『生き残った者としての責任放棄すんなよおおおぉぉぉぉぉぉ!』とは思ったけど……どうしても『起点』を捨てて撤退することは出来なかったんやね……何もかも失っちゃうから。
イリーナにはそれがわかったから、最初から説得なんてしなかった。そんな彼女に『ありがとう同志』と彼は伝えた。

進撃のネジ職人はハンジさん。ハンジさんは『使命』に何も求めてなかった。
彼女の『起点』は『人類の自由』や『探究心』であり、その『起点』は常に『使命』の外側にあった。
なので『使命』を次に託すと、心置きなく『起点』に戻った。
だから彼女は『最高に自由』であり、何人たりともその『自由』を阻止することは出来なかった。

ザックレー総統の『起点』も常に『使命』の外側にあり、『使命』は『使命』としてちゃんとこなしたら『芸術』へと戻った。

進撃の巨人63話[ 諫山創 ]

進撃の巨人63話[ 諫山創 ]

せっかく『最高に自由』な三賢人がトップに立っていたというのに、わざわざそれを壊した結果、島は不自由になった。
やっぱあいつ、『自由を求めること』が目的だったんであって『自由になることそのもの』は望んでねーじゃねーか!(『自由』を求めるには『不自由』であることが前提

リュドミラは『戦争』のために『戦争』してた。彼女の『起点』は『戦争の内側』にあった。
だから戦場から降りた後、リュドミラには何も残らず、『心優しい人』からは『憐みの対象』として『下』に見られた。
もちろんそれはリュドミラの勝手な思い込みで、相手はそんなつもりなかったのかもしれない。
しかし命を奪いすぎた彼女には、『幸せ』になることが『罪深いこと』に思えて、逃げてしまったんじゃないかと思う。

リュドミラって、もう一人のセラフィマだよね。
一歩間違えればセラフィマもリュドミラになってたんだろうけど、イリーナが『お前は何のために戦う』と問いかけてくれた。
最初、セラフィマは『敵を●すため』と答えた。

すると今度は『敵とは何か?』という『疑問』が出てきた。

考え続けたセラフィマは、最終的に『弱者や女性を守るため敵を撃つのだ』という答えに至った。

イリーナの起点

『起点を持て』と言っていたのがイリーナだった。
じゃあそのイリーナの『起点』って何だったんだろうか?

もしかすると『起点を持て』と言ってたイリーナこそが、『起点』を持っていなかったんじゃないかって気がする。

『狙撃』しかなかったリュドミラは、負傷で『狙撃』が出来なくなった後、何も残らなかった。
そんなリュドミラは、セラフィマに『私のようになるな』と教えた。たぶん、イリーナも似たようなもんだったんだろう。
自分が『起点』を持っていないもんだから、教え子達には持つよう伝えた。

だから『生きる道』を見つけることが出来たなら、『狙撃手』になってくれなくてもよかった。イリーナの『目的』は、自分が『たくさんの狙撃手を育てた優秀な教師』になることではなく、少女達が目標を持って生きることだったから。
唯一教えられるのが『狙撃』だったから『狙撃』を教えただけで、イリーナが本当に教えていたのは『生き方』だったよね。
そういう意味では、イリーナの『起点』は『狙撃』の外側にあった。

恐らく、集めた少女が全員『人を撃つなんて無理!』と辞めてったとしても、彼女は満足だったんじゃないかと思う。

イリーナの戦う理由

狙撃手として必要な指を失い、中途半端に生き残ってしまったイリーナは、最初から『死に場所』を求めて戦っていた節がある。
だからリュドミラと再会したとき、戦場で死ねなかったことを『運が悪かった』と言った。

なんかイリーナって『少女達が復讐に生きること』を阻止するために狙撃を教えたんじゃないかって思う。
だって『復讐』のために狙撃手となった親友のリュドミラは、『復讐の終わり』がわからぬまま戦い続けた結果、強制的に戦場から退場させられ、むなしさを抱えて生きていたから。
彼女が救うことが出来なかった親友への『償い』のために、少女達を『復讐の連鎖』から出してあげることを己の使命としたのかもしれない。

イリーナに助けられた少女達は『何のために戦う』と考え続けた結果、次々狙撃手を辞めていき、最後まで『復讐』を目的に残ったのってセラフィマだけだったんですよね。
最後まで残ったセラフィマの『復讐』を終わらせたら『任務完了』と思ってたんじゃないの?

そして『任務完了』の時が、セラフィマがミハイルを撃った時に『来た』と思ったから、イリーナはセラフィマに自分に罪をかぶせ、復讐を終わらせるよう言った。セラフィマにとって『イリーナを●す』は『復讐の終わり』を意味したから。

イリーナにとって、これは『償い』だったんだろうと思う。
でもそれ『償い』にかこつけて『セラフィマを復讐の道具』として利用してない?

だって他の少女達の『復讐』は阻止したのに、なんでセラフィマの『復讐』だけは成就させるわけ?

この時のイリーナって、進撃で言うところのクリスタだった。
セラフィマを救う気なかったから。

進撃の巨人 40話[ 諫山創 ]

進撃の巨人 40話[ 諫山創 ]

すべてを失い、抜け殻になってたセラフィマを『かわいそうかわいそう』と憐れんでいた男達と同じ。
だからついにやってきた『自分が楽になるチャンス』に心奪われ、自分に罪をかぶせて●すように言った。
その後セラフィマがどう生きるかなんて、考えちゃいなかったから。
だから『自分の死に場所』を、セラフィマに求めた。

だめだろ……イリーナは『厳しい人』なんだから……
自分が文字通り『死ぬほど厳しい人』と思われたいからって、教え子を『恩師に罪をかぶせて撃ち●した恩知らずのクソ野郎』にしちゃあ……そりゃエレン・イェーガーだろ?

ところがどっこい。『自分にも他人にも厳しい』イリーナが育てたセラフィマは、『自分に厳しく他人にも厳しくイリーナにはもっと厳しく』仕上がっていた。

セラフィマは『自分の復讐の終着点』が『イリーナの死』であるなら『復讐を終わらせない』を選択した。
『イリーナの望み通り』なんてまっぴらごめんだったから。

だからイリーナへの復讐のため、セラフィマは『イリーナの生命』ではなく『イリーナが育てた狙撃手の生命』を絶ち、イリーナがセラフィマから逃げようとすると追いかけて連れ戻した。

セラフィマの『イリーナへの復讐』は末永く続き、『とっとと死んで楽になりたい』と思っていたはずのイリーナは、セラフィマの故郷の再建やら新たな居住者の『幸せ』のために、セラフィマと一緒に割と長生きするハメになった。

『正しさ』と『正解』

『正しさ=正解』ではないことって、世の中には結構多いと思う。

現に『正解』ではなかったから『敵を●すことはいいことです!』と教えられた多くの兵士は心を病み、苦しい戦後を過ごす人が続出したわけで。リュドミラがその一人。

ミハイルも、『仲間意識を深める』という観点だけで考えると『仲良く共犯者になりましょう』というのは『正しかった』と言える。
しかしその『正しさ』は彼らだけの『正しさ』であって、それ以外の人からすると害悪でしかない。だからセラフィマに頭をぶち抜かれた。
結果、残された部下には『俺達の戦争はなんだったのだろう』という虚無感しか残らなかった。

国家として『戦争に勝つ』は『正しいこと』だった。その『正しさ』のために、民に『敵国への憎しみ』を植え付け、兵士に『敵の●し方』を教え、逆らう者は排除した。
しかし『民を守る』という『国としての責任』の観点から見ると、『民』の命を危険にさらし、その人生をめちゃくちゃにしたんじゃ本末転倒。そもそも『戦争』を起こしたこと自体がすでに敗北。(これは作者さんもインタビューで語ってます)

進撃でもそうだよね。『みんなの結束を固める』という観点では、『共通の悪者』を作って『みんなであいつをやっつけましょう!』とするのは『正しいこと』だった。
『自分達だけが生き残るためにすべての敵を駆逐する』という観点でもそう。島を滅ぼそうとした世界も、世界を滅ぼそうとしたエレンも『正しいこと』をやった。

しかし『正解』ではなかった。

なぜならその『正しさ』が『正解』だと言うなら、それは『争いをなくすには人類が1人以下になるしか方法がない』ということだから。
エレンの言い分では『島を守るため』に起こしたフルパワー地鳴らしだけど範囲が狭まっただけで何も変わってないことが言明されている。

進撃の巨人128話[ 諫山創 ]

進撃の巨人128話[ 諫山創 ]

これは『予言』でもなんでもなく『歴史』が証明している。記憶を消されようが壁の中に閉じ込めようが『差別』も『争い』も消えなかった。

世界もエレンも『みんなを守る』ことが目的の『正しい行為』のために、守りたかった『みんな』を危険にさらし苦しめるってことは、それって『盛大な間違い』ってことだよね?

『イジメはいけないことだからなくしましょう!』と言って、いじめられっ子を学校から追い出し『はい、これでイジメはなくなりました!』と言ってんのと同レベル。

結局この人らにとって、『自分以外のすべての人』は『どうでもいい人』だった。
だから『とてもいい人』である『自分』のために、『尊い犠牲』にすることが出来た。

『罪』を選んで『正解』を勝ち取った者

『正しさ=正解』ではないことを証明した人がいる。それがサンドラ。
彼女もリュドミラと同じく、戦争に夫を奪われたわけだけど、復讐に逃げたりはしなかった。それどころか、敵兵であるはずのハンスを愛した。

同志少女よ、敵を撃て 感想と考察2 最後は愛が勝つ!?かしこいサンドラとダメ男ハンス

そりゃあリュドミラと違って、サンドラはおなかに亡き夫の子がいたってのもあるかもしれないけど、彼女は自分の行動に『正しさ』を掲げたりはしなかった。それどころか『罪』とすら思っていた。

サンドラはおなかの赤ちゃんのためなら、自分がコウモリと呼ばれようが耐えることが出来た。かといって『赤ちゃん』を言い訳に、自分や他人を犠牲にしたりもしなかった。
これから生まれてくる子供に『自分は誰かを犠牲にして生まれてきたのだ』なんて思わせたくなかったから。

結果として、サンドラは自分も誰も犠牲にせず、守りたかったものをすべて守ってみせた。
『他者への無償の愛』が、彼女を正解へと導いた。

リュドミラは『戦後の生き方』を問われた時、『愛する者』や『生きがいを持て』と答えた。
『伝説のスナイパー』の回答としては、なんとも陳腐なものだったけど、彼女にはもっとも手に入れるのが難しいものだっただろうね……
それを求めるには、リュドミラは命を奪いすぎたから。だから酒に逃げてしまったんだろうか。
『最強』だの『伝説』だの呼ばれたスナイパーの正体は、戦争に搾取された、孤独で弱い女性だった。

イリーナも『自分には何もない』と思っていたんだろうと思う。
しかし彼女はすべてを失った少女達を集め、狙撃を教えた。いつしか少女達は彼女の『生きがい』となり『愛する者』となった。
彼女の行いは『無償の愛』だった。セラフィマを始めとするイリーナに救われた少女達も、『無償の愛』を他者へと与えた。
だからイリーナは、戦後、何者からも搾取されず、苦労しつつも『愛する者』のために生きた。

* * *

それでは今回はこの辺で。おもろかったら下にあるイイネボタンを押していただけると元気と勇気とやる気が湧いてきます(*´ω`*)ノ

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同志少女よ、敵を撃て 感想と考察5 『敵』ってなんだ? 敵を撃ったセラフィマと敵などいなかったターニャ

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