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進撃の巨人 最終回その後 パラディ島のサネスから見たエレンとハンジ 本物の悪魔の子・中編【小説】

進撃の巨人 アイキャッチ

進撃の巨人、最終回のその後を書いた小説です。今回は中編。
普通の人代表・サネスさんにはエレンやハンジさん達、壁の中の人類はどのように映っていたのか、彼は過去の罪に対してどのように生きたのかを好き放題に書いてます。

前編はコチラ

進撃の巨人 最終回その後 パラディ島のサネスから見たエレンとハンジ 本物の悪魔の子・前編【小説】

  • 最終回のネタバレ含みます
  • 過去の考察を元に好き放題に書いてます。いわゆる『二次創作』というやつになるので、興味ない人、苦手な人はお引取りください
  • 必要なのは『こまけぇこたぁいいんだよ!』の精神

悪魔の子

4.罪過

知識を得てからは、毎日畑に出るようになった。
土作りからやり直し、譲ってもらった苗を植え、教えてもらった通りのタイミングで水や肥料を与えると、以前とは見違えるようにすくすく育った。
そして、気づいたことがある。意外と『殺す』仕事なのだということだ。
まずは虫だった。土を掘り返し、出て来た幼虫や、葉についた虫を殺した。
次は野生の動物だった。
「イノシシが罠にかかったんだ」
ある日、夕食に誘われて家を訪ねると、猪肉の鍋が用意されていた。彼の畑の野菜を狙って、野生の獣がよく荒らしに来るらしい。
もちろん、獣に食わせるために育てているわけではない。追っ払ったところでまた来るだけなので、そういう場合は捕らえて殺して食うのだという。
都合が悪いから殺す。
かつて、自分がやっていたことと重なる。
壁の中の平和を守るために殺す。
畑の平和を守るために殺す。
何が違う?
同じではないのか?
もちろん自分は、殺したからといって食っていたわけではないが……
翌日。おすそ分けしてもらった肉を、教えてもらったやり方で燻製にしながら、ずっとそんなことを考える。
答えは出なかった。
そちらの答えは出なかったが、なぜ出所後、野菜作りを始めたのか。そちらはぼんやりとわかってきた気がした。
『殺す』ことに嫌気が差していたからだ。
なんだ。平和のためだ正義のためだと言っておいて『殺すことは悪いこと』と自覚していたのではないか。それが今さら『いい人』になろうとしていたとは。
ところが、その先でも『殺す』行為が必要だった。
無知とは罪なものだ。何も知らないから、こんな暮らしを選んでしまった。
もちろん、人と獣の違いはあれど、これでは以前と同じではないのか?
しかし、なにかが違う気もした。

彼と出会ってからは、割と楽しかった。
もちろん生活は代わり映えがなかったが、自分の過去を知らない者と、他愛ない話をして笑うことが、こんなに心地よいものだったとは。
結局、寂しかったのだと気づいた。
気がつくと一年以上過ぎ、畑仕事も軌道に乗ってきた。さすがに自分の畑の作物は、まだまだ売れるほどの収穫はなかったが、手が空いている時は彼の畑の収穫を手伝い、一緒に街へ売りに行くこともあった。
「ところであんた、家族は?」
その日も、彼の畑のトマトの収穫を手伝いながら、何気なくそんな質問が口から出た。
質問してから『しまった』と気づいた。そんなことを聞いてしまったら、自分も答えなくてはならないではないか。
「ああ、女房がいたよー」
すぐに返答が返ってきた。
彼はにこにこしたまま、
「俺は仕事もろくに出来ねぇわ、実の親との仲も悪くて家追い出されるわで、百姓やってる家の女に『婿入り』っつって転がり込んだんだよ。でもなー。元々、女房の両親からも結婚を反対されてたもんだから、当然そっちとも折り合いが悪くてね」
「そうか……」
女房が『いた』。
引っかかるワードではあったが、それには触れず相槌を打つ。
「まあ、生きてりゃ色々あるよな」
「ああ。最終的に、女房からも愛想尽かされて一家総出で『出てけ』の嵐。もうじきガキも生まれるって時だったってのに」
一体、何をやらかしたのか少し気になったが、追求はしなかった。それより話題を変えたかったが、彼は妙に饒舌に、
「わかってる。全部オレがダメ人間だったからだって。わかってはいるんだ。でも、むしゃくしゃしてたんだ。ちょっとした嫌がらせのつもりだったんだよ。あいつらをどうこうしたいとか、そこまでは考えちゃいなかったんだ。でもあの時のオレは、この世のすべてが敵で、俺がこんなに不幸なんだから、幸せなヤツらをちょっとくらい困らせてやってもいいと思ってたんだ……」
「おい……?」
急に早口になり、横目で見ると、さっきまで穏やかだったはずの顔が、みるみる歪んでいく。
「匿名で『あの一家が壁の外に逃げようとしてる』って、憲兵にたれ込んだんだよ。そんなことあるわけねぇじゃん。年取った両親と身重の娘だぞ? せいぜい、様子見て話聞きに行くくらいで済む話だろ」
『憲兵』という言葉に、ぞくりと背筋が凍り付いた。
「ところが次の日には、家は全焼。一家全滅だ。腹ん中のガキもろともだ。そんなことってあるか? 憲兵は『タバコの不始末だ』なんて言ってたけど、あの家でタバコ吸ってたのはオレだけだぞ……」
全身、嫌な汗が噴き出してくる。しかし、こちらの様子には一切気づかず、彼は手にしたトマトに向かって、
「……そうだよ。誰かがいるんだよ。あんなひどいことをやった『誰か』が! オレじゃねぇ! あの日だって、遅くまで酒場で飲んだくれて、気が付いたら道端で寝てたんだ! でも周囲はそんなの信じるわけがねぇ! そりゃそうだ! 日頃の行いが悪すぎた! でもやってねぇ! だけどそんな目を向けられると、だんだん、覚えてないだけでホントはオレがやったんじゃないかって気がしてくるんだ……」
どうりで、彼がこんな辺鄙な場所で隠れるように生きていたのかがわかった。そして、なぜ自分に親切だったのかも。
自分と同じような理由だった。人の目が恐ろしく、誰もいないところへ逃げ出したかったのだ。
だけどもう一方では、孤独で、誰かと話したい気持ちもあった。
彼は涙を流しながら、こちらに振り返り、
「なあ? あんたはどう思う? オレがやったと思うか? 本当に、オレはどうしようもないクズでダメな男だったけど、そこまでのことをする度胸はねぇはずなんだ……」
彼がそんなことをやったはずがない。それは自分が一番よく知っている。
少なくとも自分が扱った件ではない。しかし裏付け調査が面倒で、いきなり粛清してしまう者もいなかったわけではない。
どのみち『そちらの記録』は残さないのだから。
しかしそんなことを言えるわけもなく、震えをこらえながら、
「あ、ああ……信じるよ。あんたは、そんなひどいこと絶対やってない」
「そう……だよな。うん、そうだよなぁ……」
むろん事の発端は、ただの憂さ晴らしのために『憲兵に通報する』なんてことをしたせいだ。
しかし、責める気にはならなかった。責める資格が、自分にはなかった。

――ポタッ、ポタッ……

水滴が落ちるような音に振り返ると、彼が手にしたトマトが半分握りつぶされ、赤い汁がしたたり落ちていた。
さらに顔を上げると、彼と目が合った。さっきは安堵の顔をしていたはずだが、今はうつろな目で、こちらを見ている。
彼はそのうつろな目でこちらを見つめたまま、こう言った。
「なんでわかる?」
そこから先は、よく覚えていなかった。
気がつくと、収穫した野菜を放り出して、走って逃げ帰っていた。

その一件以来、彼とは顔を合わせづらくなってしまった。
なるべく家の中に引きこもり、外に出る時は周囲を警戒してから出るようになった。
もしかすると、自分が元中央憲兵だったことに気づかれたかもしれないと思ったからだ。
むろん、一度だってそんな話をしたことはない。あの時の会話を振り返っても、そんな推測が出来るような返事はしていないはずだ。
ただの妄想だ。
しかし、

――なんでわかる?

その言葉が脳裏に焼き付いて離れない。もしかすると、彼も今頃、自分と同じように色々妄想して、その結論にたどり着いているのではないか、と。
仮に、彼がこちらの正体に気づいたとしたら。彼はどうする?
復讐するか?
オレの不幸はお前のせいだと、刃を向けてくるか?
たとえ実行犯ではなかったとしても、同じ所属の誰かがやったのだ。彼にしてみれば同じだろう。
自分はどうすればいい?
尻尾を巻いて、逃げ出すか?
観念し、おとなしく殺されるか?
自分は悪くないと言い訳し、相手の非を責め立てるか?
むしろ、やられる前にやり返すか?
そこまで考えて、はたと気づく。我が王も、同じだったのだろうか?
直接、自分がやったわけではない。しかし、自分の先祖が犯した罪を知っていて、その復讐に燃える被害者が目の前に現れたら?

尻尾を巻いて、逃げ出すか?
観念し、おとなしく殺されるか?
自分は悪くないと言い訳し、相手の非を責め立てるか?
むしろ、やられる前にやり返すか?

初代壁の王は、安全な収容所を作り、自らその中へ逃げ込んだ。
我が王は、おとなしく殺される選択をした。
エレン・イェーガーは、やられる前にやり返しに行った。
自分は? 自分はどうする?
自然と脳裏に浮かんだのは、しらばっくれた末に『俺は悪くない』と言い訳を並べ立て、そもそもはお前がつまらない嫌がらせしたせいだと責め立てる、見苦しい自分の姿だった。
あの頃と、なにも変わらない。
口では『王のため、平和のため』とご立派な理由を並べ、その罪を他人に転嫁しているだけだった、あの頃と。
「王……よ……」
頭を抱え、救いを求めるように、かつて心酔した王を呼ぶ。
目を閉じると、王の顔が――自分にとって『王』とは、ウーリ・レイスだった――王の、あの穏やかな顔が浮かんでくる。
いつも遠くから見ているだけだったが、たまに言葉を交わす機会があった。
王は、こんな自分の話にも耳を傾けてくれるお方だった。
そして聞き終えると、王は決まってこう言った。

――いつもすまない。

「…………?」
思い出した王の言葉に、目を開く。
すまない?
王はなぜ、そんなことを言ったのだろう?

5.正義の奴隷

それから半月が過ぎようとした頃だった。
玄関のドアがノックされる音に驚き、思わず持っていた木のコップを落としてしまった。
とうとうその時が来たかと思ったが、
「――サネスさん? ジェル・サネスさんのお宅でしょうか? いらっしゃいますかー?」
知らない声に、拍子抜けする。
最初は無視したが、コップを落とした音を聞かれてしまったようだ。しつこいノック音に根負けし、ドアを開けた。
訪ねて来たのは、眼鏡をかけた若い男だった。差し出された名刺を見ると、ベルク新聞社のピュレとかいう記者のようだ。
どうやって自分を探し当てたのかは不明だが、かつて、王制側として働いていた者達――特に、自分のような、王直轄の中央憲兵だった者を中心に取材して回っているらしい。それらの証言を元に、かつての王制の繁栄と崩壊にまつわる本を作りたいのだと。
なぜ今さらそんな本が必要なのか。
「話すことなんてねぇよ。わざわざご足労いただいて申し訳ねぇが、帰んな」
「では、今のこの島の状況について、どう考えているかだけでも!」
玄関のドアを閉めようとすると、強引に手をかけて食い下がってきた。タダで帰るつもりはないらしい。
仕方ないので家に上げると、彼は改めて、突然の訪問と無礼を詫び、勧めたイスに腰を下ろした。
「今の状況と言われてもね……見ての通り、俺はすっかり世捨て人だ。最近の世情にうとくてね」
「では、これを読んでみてください」
鞄から取り出したのは、数冊の新聞だった。日付を見ると、地鳴らしがあった頃のもののようだ。
島を制圧したイェーガー派は、今では『軍』というものを作り、島の権力を手中に収めていた。
新聞は、まだ軍が出来る前、イェーガー派を名乗っていた頃のものだ。
「あんたんトコの?」
「はい……お恥ずかしい話、今では全部、軍の都合に合わせた内容ばかり書かされています」
「ふぅん……」
ざっと記事を流し読みすると、たしかにその通りのようだ。
壁の崩壊で大勢の死者が出た。それもあって、最初こそエレンやイェーガー派を非難する記事はあったが、日を追うごとにそれらの記事は消え、どんどんエレンを賞賛する内容に変わっていった。『彼のおかげで敵は消え、島に平和が訪れた』と。
「こちらは最近の記事です」
新聞記者は、今度は別の新聞を数冊取り出し、机に並べる。手に取るまでもなく『戦わなければ勝てない! 戦え、エレン・イェーガーのように!』だのというデカデカした見出しや、『集え勇気ある若者よ! エレン・イェーガーの名の元に!』だのという兵士の募集記事が見えた。あまりに露骨すぎて、王様や神様扱いを通り越して、客寄せの珍獣のようだ。
「近頃は、特にエレン・イェーガーの功績を称える記事を書かされています。と言っても、ほとんどでっち上げですが。……本人もいないのに、なぜかわかりますか?」
「わかるわけないだろ」
「怖いからですよ。エレンが」
その言葉に、大量の巨人の群れが闊歩する光景を思い出す。
「こんな噂をご存じですか? あと一、二年以内に、エレンが帰ってくるんじゃないか、って」
「死んだんじゃないのか? だから世界の報復にびびって兵士募集してんだろ」
「エレンの生死を確認した者はいません。だから『噂』が立つんですよ」
「で、なんで今さら『帰ってくる』って?」
「エレンの寿命が近いからです。巨人継承のために帰ってくるんじゃないかと言って、次の継承者は誰にするか、軍の上層部では押し付け合いをしているとか」
巨人継承者の寿命は十三年――そういえば、収容所でそんな話を聞いた気がする。そしてその力は、次の継承者に『食われる』ことで受け継がれると。
十三年後に食われて死ぬとわかって、欲しがる者はそうそういないだろう。
「軍を取材しているとわかります。ヤツら、本当はエレンに帰ってきて欲しくないんですよ」
「だけど万が一にそなえて、今からシッポ振る準備だけはしておこう、ってわけか」
ばさりと、手にした新聞を雑に机に置く。
「で?」
「で……とは?」
「今さらこれを俺に読ませて、あんたはどんな感想を聞きたい?」
あんたの都合に合わせた感想を言ってやろう。
暗にそう含ませると、彼は口ごもった。
ため息をつくと、
「あんたは軍に不満があるんだろ? 最初は『敵はいなくなり平和になりました。めでたしめでたし』って喜ばせて支持を集めといて、今は兵士募集して戦え戦え。海の向こうに進出するって話も聞いたことがねぇ。ずーっと島ん中に引きこもったままだ。なのに軍は今のこの状況が続くことを望んでいる。ヤツらにゃ都合がいいからだ。だが『そんなこと』をバカ正直に書いちまったら命が危ない。だから昔の王制を持ち出して、遠回しに軍のおかしさを主張したい。違うか?」
図星を付かれたのか、彼はしばらくうつむいていたが、
「私達は……こんなことのために王と戦ったわけじゃない」
絞り出すような声だった。
彼は顔を上げると、身を乗り出し、
「結局、あの頃に戻っただけじゃないですか! いや、あの頃よりもひどい! 壁の崩落で、どれだけの人が死んだと思います? なのに、その人達の怒りや悲しみはすべて『自由』なんてもののために封殺され、支援どころか開拓地に送り出されて過酷な労働を強いられている! おまけに、異論を上げれば容赦なく捕らえられ、よくて地下街、悪ければ粛正! これは一体、誰のための『自由』なんです? 巨人を主と崇めて、自らを家畜として差し出して喜んでいるようにしか見えない!」
腹の中に溜まったものをぶちまけるように、一気にまくし立てる。
結局、彼が訴えたいのは現状への非難と自分の正義感だった。そのことにため息をつくと、
「相手は『神様』なのさ。神様だから、家畜を愛し、家畜守り、家畜を脅かす外敵をやっつけ、そして家畜を食う。ああ『出来の悪い子』は間引いたりもするな。なんにもおかしいことはない」
「我々も、エレン・イェーガーも、みんなただの人間だ! 家畜でもなければ神様でもない! 人間のくせに神様みたいに振る舞って、他人を家畜扱いするなんて、ただの傲慢だ!」
一瞬、静かになった。
記者は腰を浮かせたまま、じっとこちらを睨みつけていた。
実にきれいな目だった。それはまるで、無知者に『真実』というものを教えてあげる『正義の味方』の目だ。
その目に――自然と、笑いが込み上げてきた。
「何がおかしいんですか!」
「ああ……いや、悪い悪い。あんた『いい人』なんだなって思ってな」
こちらの言葉に、記者は勢いを削がれきょとんとする。
その顔に、笑いを噛み殺しながら、
「あんたは、いずれ食われる家畜どもが『かわいそう』で仕方ないのさ。なのに家畜どもはそのことすら知らず、のほほんと暮らしている。それがあまりに哀れで、愚かで、腹ただしくて。家畜小屋を壊すことで『救ってあげたい』と思っている。なぜなら『俺はあいつらとは違う』と思っているからだ」
「ち、違います! 私はただ――」
「――違わねぇさ! あんたさっき『他人を家畜扱いするなんて傲慢だ』っつったな? 他人の『傲慢』を責められるヤツがどんなヤツか知ってるか? 自分が人を家畜扱い『する』のは許せるが、自分が人から家畜扱い『される』のは許せない、傲慢極まりない正義の奴隷さ。そうだろう? 俺の予測では、あんた、俺らに会いに行ってること、仲間や家族には言ってないんじゃないのかい?」
記者は何も言い返せず、青ざめた顔で硬直する。
「なぜ誰にも言えないのか当ててやろう。『どうせ止められる』とわかってるから? 違うね。『俺の正しさを理解できない、頭の悪い家畜どもは使えない』と思ってるからだ。だからあんたは、ひとりぼっちでここに来た。『この世界を変えられるのは自分だけだ』と思い上がってるからだ!」
「それは……! 家族や仲間を巻き込まないためであって――」
身を乗り出してきた記者の喉を、すかさず片手でつかんでやる。
別に力は入れていない、触れてる程度だ。しかし今の彼は、強い力で絞められている気分だろう。首を絞められた鶏のように、口を開けて酸素を求めている。
「へー、そりゃあかっこいいな。まるでヒーローだ。『みんなの』問題のために、我が身ひとつを犠牲にがんばってくれようとは。でもそのためには、自分一人くらいちゃんと守れねぇとなぁ?」
手を離してやると、記者は苦しそうに咳き込み、さっきとは一転、すっかり怯えた目でこちらを見上げる。
それに呆れると、
「おいおい、ついさっきまで『死ぬのなんて恐くない!』ってツラで語っといて、情けねぇな。早くも『死にたくない』ってか? 俺が何者か、知っててここに来たんじゃねぇのかよ? 今でこそしょぼくれたジジイだが、ちょっと前までは訓練された兵士だったんだぜ? その気になりゃあ、ブン屋一人消すくらい、朝メシ前だ……」
「わっ、私を……どうす……」
「どーもしねーよ。ったく、さすがの俺も、人肉肥料で育った野菜なんて食いたかねぇよ。だがあんたにとっちゃ有益情報だっただろう? あんたは何一つ変えることも出来ず、自分の無力に打ちひしがれて死ぬ。早めに気づけてよかったじゃねぇか。おかげで、余計な犠牲者が増えずに済む……」
「余計な……犠牲者?」
「ま、あんたにとっちゃ、俺達なんて昔散々人を殺した悪者だ。いくら巻き込んでも、痛くも痒くもねぇだろうよ」
まだ意味がわからないらしい。仕方がないので、わかりやすく、
「あんたが『書きたい』と言ってる本。もしそれを軍のお偉方が読んで、不快に思ったらどうなる? 『これは自分達への非難の書だ』と気づかれたら? なにしろ俺に勘づかれるくらいだ。身に覚えのあるやつは、みんな勘づくだろう。あんたはいいだろうよ。自分でしたことだ。だが、あんたの家族や仲間のその後は? あんたの『正義』に共感し、協力しちまった俺の昔の仲間達は? 軍が『そういうヤツら』をどうするか、俺には手に取るようにわかる。なにしろかつての俺が、今の軍の立場だったからな……もしそうなった時、あんたに何が出来る? ま、どうせその頃には、あんたは土の下だろうが……」
考えたこともないのだろう。顔にはびっしりと汗が浮かび、みるみる青ざめていく。
その顔を見ていると、自然と笑いが込み上げてきた。背筋がゾクゾクする。
「ああ、昔を思い出すなぁ……あんたみたいなヤツはわんさか見た。いっぱい殺したなぁ……どいつもこいつも人の苦労も知らねぇで、『自分の正しさ』をいかに行使するかで頭がいっぱいだ。気持ちいいだろう? 『正義』ってヤツは。俺も気持ちよかったよ。そういう勘違い野郎の鼻っ柱をへし折って、てめぇがどれだけ罪深いことをやろうとしているか、誰が本物の『正義の味方』か、しっかり教えてやったよ。そいつに『罪悪感』ってのが芽生えりゃこっちのもんだ。反論も反撃も出来なくなって、一方的に責め放題の殴り放題。あんたも新聞記者なら身に覚えがあるんじゃないのかい? 相手が何も言えないのをいいことに、言葉の暴力、数の暴力で一方的に殴りまくるのは新聞屋の十八番だろうが」
「…………!」
身に覚えがあるようで、わかりやすいくらい動揺している。顔面蒼白になり、うつむいて小さく震えだした。
こんな気持ちは久しぶりだ。そうだ。『自分は家畜じゃない』と勘違いした、思い上がった『家畜』に、身の程というものを教えてやるのは気持ちいい。ああ、やはり自分は『こっち側』の人間だ。
「俺は、エレンや、軍の連中の気持ち、ちょっとはわかるつもりだ。そりゃあ気持ちいいさ。弱者を踏みつけ、いっぱい殺しても、誰も自分を裁けないんだぜ? それどころか褒められるなんて、そりゃあまるで、選ばれし『神の子』だ。まさに『これが自由だ!』って気分だろうよ。……人間風情じゃ、神様は裁けねぇよ」
記者は、震えの止まらぬか細い声で、
「……でも……あなたは、『神様』じゃ、なかった。だから……裁かれた」
「ああ、その通りだ。あの悪魔達さえ現れなけりゃあ……」
『悪魔』という言葉に、記者の目に、一瞬、生気が戻った。
立ち上がると、棚からコップを二つ出し、水差しの水を注ぐ。
「あんたとあの悪魔達は違う。あいつらは、俺にギャアギャア言われたくらいじゃビクともしねぇ」
「悪魔、とは?」
「ま、あいつらは、仲間の救出と任務遂行のためであって、『正義』なんてものには毛の一本ほどの興味もなかったんだろうがな」
言いながら、水を注いだコップを記者の前に置いてやる。
「それ飲んだら帰んな」
そう告げると、自分も水を飲む。少々しゃべりすぎた。
ふと見ると、記者はコップを両手で包み込み、水面をじっと見つめたまま、何やら考え込んでいた。
「……家畜では、神様にかなわない……でも、悪魔なら。悪魔なら……神様と戦える、ということですか?」
「さぁねぇ。だが少なくとも、神様にケンカ売れるのは、神をも恐れぬ悪魔だろうよ」
記者は、再び静かになった。どうやらこれ以上、話すことはなさそうだ。
家の外まで見送ってやると、彼はこちらに振り返り、
「ヘンなこと言いますけど……あなたは『いい人』です」
ホントにヘンなことを言う。
「どうした急に? また絞めてほしいのか?」
「いえ、それはもう結構です」
手で首をつかむポーズをしてやると、記者は一歩離れた。
「実はここに来るまで、もう六人くらい会ってるんです。誰一人、取材させてはくれませんでしたが……私は、彼らに原因があると思っていました。後ろめたい過去なんて話したがらないのは仕方ないとか、過去の罪と向き合いたくないからだとか……でも、おかげでわかりました。私に原因があったんだって」
ため息をつき、肩を落とす。
「『正義の味方』が『弱い者いじめ』なんて、一番やっちゃいけないことですよね」
「……それは俺への嫌味か?」
「あ、いえ、あなたのことを言ったわけでは……」
慌てて、さらにもう一歩下がった。
記者は、バッグの中を探りながら、
「本を書くことそのものをあきらめたわけじゃありません。あの時と今と、何が違うのか……もう一度、よく考えてみます」
そう言いながら取り出したのは、原稿用紙の束だった。こちらに差し出すと、
「気が向いたら使ってください」
ありがたく頂戴した。かまどの火起こしに使えるだろう。

窓越しに、遠ざかる新聞記者の背中を見送りながら、ぼんやりと考える。
あいにく、あの記者は『悪魔』にはなれないだろう。『いい人』すぎる。
その姿が見えなくなると、どっと疲れが出てきた。
ついさっきは、久しぶりに気持ちよく、饒舌にしゃべっていたというのに。
この感じ、そうだ。昔の、ひと仕事終えた時の感覚に似ている。
異端者に罰を与え、粛清し。その『善行』を行ってる瞬間は心地よいのに、すべて片付くと、途端に重苦しい疲労感に襲われるのだ。
眠りたいのに眠れず、きつい酒を飲んだりもした。
ようやく眠りについても、いまわの際の恨み節が、断末魔の叫びが、夢となって蘇り、眠らせてくれない。
そのイライラを、家族にぶつけることもあった。結局、自己嫌悪と家庭不和を悪化させただけで、そんな時は教会に行った。家族にはしゃべれないことも、王にならしゃべることが出来た。
どうやって人を殺したかを。
そいつがどんな『悪いこと』を行い、どんな『罰』を与えたか、誇らしげに報告した。すると、あの重苦しい気持ちが一転、自分がいかに『いい人』なのか、『正義の味方』なのか、酔いしれることが出来た。
そして王はいつも、開口一番にこう言ってくれるのだ。

――いつもすまない。

突然、まるで冷水を浴びせられたような錯覚に陥った。
その瞬間、理解した。
「そう……か。俺は、俺の『正義』のために、王を利用していたのか……」
全身から力が抜け、その場に膝をつく。
『いつもすまない』
王は、自分の報告に、困ったような、どこか申し訳なさそうな顔をして、そう言ったのだ。
当時は、まったく気にしなかった。それどころか、褒められているとさえ思っていた。
しかし王は、謝ったのだ。『すまない』と。
なぜ王は、そんなことを言ったのか。
自分が殺せば殺すほど、その『罪』を、王が肩代わりしていたからだ。
しかし王は、自分達にそんなことは知らせなかった。
知っていたからだ。『食われることを知らないからこそ、家畜は幸せでいられる』と。
王は、哀れな家畜達から『幸せ』を奪わぬため、真実を黙った。その代わりに、謝った。『すまない』と。
王が本当に言いたかったのは、きっとそんなことではなかっただろうに。
手が自然と、曲がった鼻に向かった。文字通り鼻っ柱をへし折られた時の、痛みと恐怖が蘇る。
結局、自分さえよければそれでよかったのだ。民をどう殺したか、そんな報告を聞かされた王の気持ちなど、考えたこともなかった。
仲間に裏切られたと思い込み、王の正体をバラしたりもした。自分が言わなくたって、どうせ他の誰かがバラすのだと言い訳して。
収容所に入れられ、裁かれている気分に安心すらした。それで『終わった』のだと。もう『順番』は、次に回って行ったのだと。
しかし、違う。
あの悪魔達は、自分に『痛み』を与えることで、『神』でも『家畜』でもなく『人間』に戻しただけだった。だから『罪』が発生した。
そうだろう? 家畜はただ、生かされてるだけだ。
神様の気分ひとつで、かわいがられ、道楽のおもちゃにされ、腹いせにぶたれ、そして食われる。どこに『罪』があると言う?
神様もそうだ。『自分の所有物』である家畜を、自分の自由にして何が悪い。
『罪』があるのは人間だ。
人間が人間を殺すから『罪』が生まれ、したことに対する『責任』が発生する。
『責任』を果たせるのは、生きた『人間』だけだ。
だから自分はまだ、生きている。
……あの悪魔は、未来でも見えているのだろうか? 予告通り『友人が受けた以上の苦痛』を、現在進行形で生きながら体験させてくれている。
どうやら『順番』が来たようだ。

〈後編へ続く〉


後編はコチラ

進撃の巨人 最終回その後 パラディ島のサネスから見たエレンとハンジ 本物の悪魔の子・後編【小説】

前回はコチラ

進撃の巨人 最終回その後 パラディ島のサネスから見たエレンとハンジ 本物の悪魔の子・前編【小説】

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